第22話 憧れは憧れのまま
「ちゃんと断ったよほら」
菊池からの誘いを断ったラインの画面を見せてしっかりと説明する。
「テストが終わったら私に尽くして」
いつも僕は十分尽くしていたつもりだ。
「なんで」
「不安にさせたから」
「じゃあしょうがないな」
彼女が不服と述べたのであればそれは不服であり彼女からしたら許されざることなのかもしれない。
僕は彼女に逆らえない。きっとこれからも…
「秀はなんでそんなに勉強を頑張るの?」
そんなもの決まっている、勉強すら頑張れなくなってしまったら僕は本当に天才のそばにいられない人間になってしまうから。
「僕は天才じゃないからだよ」
それに対しての返答を彼女は何も言わないかった。
ただ彼女は詰まらなさそうな顔をして、ただただ僕の勉強しているところを少し遠くから見ていた。
教室のカーテンの隙間から入る春の暖かな日差しが顔を照らし、目が覚める、周りの様子を見るとどうやら今はもう放課後らしい。
「おーい鷺ノ宮起きろ、放課後だぞ」
「起きてから声をかけるなよ」
「鷹河さんが『寝かせてあげて』って起こそうとした俺たちを止めたんだ、思ってくれてる人がいるなんて羨ましい限りだぜ」
「茶化すなよ、凉ありがと」
凉は顔を赤くして何も言わず夏木さんの方へ向かった。
「六限目の記憶が全くねえ」
「大丈夫、国語の婆ちゃんは気づいてなさそうだったぜ」
「それはラッキーだったわ」
「鷺ノ宮なんでそんな勉強するんだ?」
「まあ、お前も今度のテストで何となくわかると思うぞ」
「なんか煮え切らない言い方だな」
「口下手なんだよ」
適当に誤魔化す、口から息を吐くように嘘を付くことは出来るが、伝えたいことをはっきりと伝えるのはなぜこんなにも難しいのだろう。
「まあいいや、お前テスト頑張ってたもんな、終わったらパーッと遊び行こうぜ!」
「それ最高の提案だな、凉に許可貰っておくわ」
「なんでだ?」
「テスト終わったら凉に尽くすって約束したんだよな」
「お前本当に鷹河さんの事になると甘いよな」
「幼馴染だからな」
「幼馴染ってだけであんなに奴隷みたいにされてるのか、それとも鷺ノ宮がドMなだけなのか」
「凉がドSって線が多分一番濃い」
「それは見てれば分かるわ、でもお前は多分ドMだぞ認めろ」
「それだけは絶対に認めない、凉がドSで怖いから従ってるだけだ」
「なんか難しい関係なんだな幼馴染って」
「そうだな、俺もよくわかんねえし」
「じゃあ俺も今から幼馴染作るか」
「お前は何を言ってるんだここは高校だぞ?」
せいぜい小学校から一緒とかがギリギリ幼馴染の定義に当てはまるものじゃないのか?
「そんなことは分かってるんだよ、でもお前ばっかり金髪で美人で背の高い幼馴染がいるのはずるいじゃねえか!」
「ずるいって言われても、好きで幼馴染になったわけじゃないしな」
「じゃあ俺にはなんで美少女幼馴染がいないんだ」
「知らねえよ」
菊池はよほど幼馴染というものに憧れがあるようだ。
憧れは憧れのまま幻想でいれば幸せだということも知らずに。
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