第19話

 恨みつらみを書き綴ったものを学校の敷地内に埋めると自然とその手紙はなくなり、願いを忘れている。

 願いを忘れているならまだしも手紙を埋めた事すら忘れている。だからこの話が七不思議だと常世先輩が言った。


「覚えてないんじゃ本当にただただ何もなかっただけなんじゃないんですかね、それこそ常世先輩みたいな人が適当にでっち上げて作ったものじゃないんですか?」


「僕も最初はそう思ってたんだよね、ただ生徒の何人かが数日後に『お前は手紙を出した、そしてお前の望んだ感情は忘れさせた』って手紙が来るらしいんだ、不思議とその生徒たちはスッキリとした気分になるんだと」


「やっぱ馬鹿らしいわね、私は帰るわ、圭もそんなもの信じないで私に相応しいペットになりなさい」

 心底つまらなそうに天川先輩はどこかへ立ち去って行った。


「ペット?」

「夏木さん静かに」


「僕は別に信じてないぞ、ただ噂として知ってるだけで」

 信じていたであろう常世先輩は動揺しながら帰りがけの天川先輩の背中に向けて言い返していた。


「じゃあ僕もこの辺でいいかな、お眼鏡に叶う不思議な話を出来たか分からないけど」

 先輩にお礼を言うと先輩は天川先輩のいった方向へ走っていった。


「なんか、怖かったけど七不思議らしい話だったね!」

「いいのか七不思議を自分の足で探さなくって」

「俺はもういいかな、信じてた七不思議が人の手で作られた適当な嘘だったことがわかったからな」

「私も怖いのはちょっと苦手だからやめたいかな」

「私はやりたい」

 凉がこちらを見る。

 目の前でなく何処かをみている。

 曇ったガラス玉のような目。

 なぜかこの目をされると目を逸らせない。

「定期テストが終わったら考えて見るか」

「嫌」

「ダメだ、定期テストは大事だ、成績が悪ければ僕は家に戻される」

 一人暮らしの条件に家事をやり、まともなご飯を食べ、一定以上の成績を取り示すことだと親と約束している。

 逃げるために来たようなものだ、より逃げられなくなる場所に戻るわけにはいかない。

「じゃあ定期テストの後でいい」

 思ったよりもあっさりと凉は引き下がった。

 

「今日は解散にしますか!」

「そうだな」

「あの七不思議先輩、小さい事を覗いても本当にオーラを感じたというかなんか不思議な感覚だったわ」

「そう?」

「鷹河さんに初めて会った時も同じような変な感覚になったよ、真反対に見えてなんとなく似てる気がする」

「私もなんかそれ分かる、常世?先輩の方は鷺ノ宮君に似てると思った」

 そんな会話をした後本当の解散になった。反対方向の二人と別れ凉と帰り道を歩く。



「凉は僕と常世先輩似てると思うか?」

「秀は秀、私は愛咲ちゃんに似てるの?」

「全然違うと思うぞ」

「うん」

 彼女は不安そうな表情をやめて頷いた。

「秀はなんでテスト勉強するの?秀ならいい点とれるでしょ」

「いや、僕には難しいかな」

「そう?」

 真っすぐな視線を感じる。

 彼女のその期待する視線が苦しい、僕に彼女の期待に簡単に答えられる力はない。

 僕は努力をしなければならない、彼女にこれ以上差を付けられるわけにはいかない。

 なぜなら僕は天才ではないから。

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