第13話 僕は一目惚れを知らない

「鷺ノ宮は何でこの学校選んだの?」

「あーまあ、何となくかな」

 さっきあれだけ幼馴染を持ち上げる発言をしておいて彼女から離れるためというのはなかなか気まずい。

「菊池はなんか理由あるのか?」

「好きな子がこの学校受験するって聞いたから」

「怖いなストーカーじゃん、その子も同じクラス?」

「ここからが本当怖いんだが、その子はこの学校にはいなかった」

「めちゃくちゃ悲しいなそれ」

「その子が行かない事実聞いたときは三日間寝込んだ」

「意外と治り早いんだな」

「メンタルは野球で鍛えられてるからな、それはそうとクラスの女子レベル高くね?」

「マジで?」

「なんだ、見てないのか、今度おれがかわいいと思った子解説してやるよ」

「お前本当に気持ち悪いな、でもありがたく聞かせてもらう」

 そんなあほらしい会話をしているうちに菊池の人となりが見えてきた。こいつはお調子者でなく生粋の馬鹿だ。


「秀助けて」

 いつになく弱々しい声で菊池との会話を遮るように自分より背の高い女の子が僕の背中に隠れる、どうやら目の前の女の子との会話に耐えられなくなってしまったようだ。

「鷹河さん助けては酷くない?」

 目の前にいる騒がしそうな女の子は楽しみながら僕越しに鈴を見ている。

「だって、なんか怖い」

「君も何か言ってよ」

「ごめんな、こいつ人付き合いめちゃくちゃ苦手なんだ」

「そうなの?ごめんね知らなくって」

 目の前にいる少女は申し訳なさそうな顔をしていて、少し心が痛んだ。

「長く話していたら懐くから根気よく話しかけてくれないか?」

「うん!もちろん、君の名前も聞いていい?」

「俺は菊池だ!」

「ごめん君じゃない、保護者みたいな方」

「こいつは鷺ノ宮俺の親友だ!」

 親友になるの早すぎやしないか、自己紹介の場を奪われて少し目の前の女の子と気まずい時間が流れる。

「まあいいや、私は夏木よろしくねー」

「よろしくおねがいします!」

「だからなんで菊池君?」

「俺には鷺ノ宮と違ってかわいい子が近くにいないから頑張らなきゃいけないんだ」

「かわいいとは言ってくれるね!気に入った、私の友達にしてあげる」

「とても光栄です」

 僕らは何を見せられているんだろうか、二人は本当に初対面なんだろうか、謎の面白いとはギリギリ言えないくらいのコントを見せられている気がする。


 そんなこんなでオリエンテーションは終わり学校へ戻ってくる頃には友人が二人増えていた。

 さっき菊池から聞いた「クラスのレベルが高い」という言葉を思い出し、戻ってくるクラスメイトを何となく眺めてみる。

 整った顔立ちだったり、コミュニケーション能力が高そうだったし、魅力は沢山ありそうな女の子は多かったが、一目惚れするほど心を引かれる子は見つからなかった。

 凉に頬をつままれ観察するのをやめる。

 きっとこの不器用な子がいる限り僕は一目惚れという感情を知ることはないのだろう。

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