第12話 髪の生えた野球部の男

 その後は親戚とするような本当にどうでもいい話を凉母とした。その間凉と凉父はほとんど話してはいなかったが楽しそうに話を聞いていた。

 ちょうどいい時間になり、凉両親が返る時間になる。

 何か大事な話でもされるのかと思ったが、そんなこともなく今日は終わりそうだ。

「秀君じゃあお邪魔しました」

「いえいえ、またいつでも遊びに来てください」

「そうだ、凉君のお母さんから手紙を預かってきたんだった」

「手紙ですか?」

「そう、内容は教えてもらってないけど大事な事らしいわ」


「あと、これは俺から」

 凉母の言葉を遮るように背の高く低い声が割って入る、滅多に聞かない凉父の声だ。凉父の手から封筒を渡される。

「それじゃあ、また」

 騒がしい夫婦はそんなこんなですぐに帰っていった。

 ついでに凉も部屋へと送り返す、今となっては彼女がなんで親が来るのが嫌がっていたのか全く分からない。


 ようやく一人の時間となり、先ほど渡された母からの手紙を開けてみる。

 そこには心配しているといった内容と、凉と仲良く助け合っていけとの事が書かれていた。

 本当に凉が僕と同じ高校に行くことを知らなかったのは僕だけだったらしい、どうして教えてくれなかったんだろうか。

 まさか、高校に逃げた理由を親に言わずに、適当な理由を付けまくったのがこんなところで仇となるとは、とりあえず親からもらった手紙をありがたく引き出しにしまう。


 次の日になり高校生活二回目の登校が始まった。

 担任の話を聞いているとどうやら今日はオリエンテーションらしい、今日こそ高校生活初めての友達を作るチャンスだ。

 オリエンテーションは避難経路も覚えるという意味もあるらしく、学校近くの大きな公園や神社、駅周辺などを散歩するというものだった。

 四人グループの班で分かれて散策するらしく、運がいいのか悪いのか凉の姿はそこにもあった、ここで友達を作るしかない。

 手始めにこの目の前にいる高校生らしい女の子に話しかけてみよう、久しぶりのゼロからの友達作り、少し緊張する。

 息をのみ話しかけようとすると、声を出す前に後ろに手を引かれた。

 振り向くと確かな圧力を金色の髪の毛や整った顔、大きな体から感じる。

 気を取り直して、隣にいる体格の良さそうな男に声をかけようとする素振りを見せる、こちらは止められない。

 

 小中高、あるいはそれより前の事を思い出しても女友達は凉から紹介された共通の友達しかいない、高校生活で彼女を作るという些細な夢はどうやら入学二日目にして達成不可能になりそうだ。

「なあ、君体格いいけどなんかスポーツとかやってたの?」

「中学の時三年間野球やってたんだよね」

 坊主頭ではない元野球部の男は気さくに答えてくれた。

「坊主じゃないんだね、名前なんて言うの?」

「俺は菊池、まあ引退してからだいぶ時間たつからね流石に髪の毛生えたよ、そっちの名前は?」

「俺は鷺ノ宮って名前」

 いい感じにその後も会話が続き、菊池はそれなりにお調子者だが真面目そうな奴だということが分かった。

 視界の端にいた凉は同じ班の女の子に話しかけられており、困惑している様子が見える。

「鷺ノ宮はあの金髪の女の子と知り合いなの?」

「幼馴染なんだよね」

「めっちゃ羨ましい、モテるんだろうな」

「いや、大体学校でめちゃくちゃに振られる奴がいてそれ以降はモテなくなる」

「すげぇ高嶺の花ってやつだ」

「いや、菊池もすぐにわかる、幼馴染の目線で言うと正直色々と怖い」

 聞こえないくらいの音量でそんなことを言ったが前から静かなる怒りの気配を感じたのはきっと気のせいだろう。

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