第11話 黙って俺について来い
家に戻り、紅茶を飲んでいると何やらさっきまでの雰囲気と違い幼馴染がそわそわしている。
「どしたの?」
「ママ多分そろそろ来るってラインが来た」
「なるほど、じゃあそろそろ部屋戻ったら?」
「秀の部屋に来てって言った」
「まじですか?」
幼馴染さんはこくりと首を縦に振った。
部屋を一望すると所々にゴミが散乱して見える、どこをどう見ても他の人を呼べるような部屋ではない。
「片づけてないんですけど」
「がんばって」おもちゃをねだる子供のような言い方をしてくる。
「可愛くいってもダメ」
「掃除手伝う」
「今からでも凉の部屋にしてもらうのは?」
「私の部屋にパパとママを呼ぶのは絶対はダメ」
「なんで僕の家ならいいんだよ」
彼女は無言で思考を始めた。
金色の髪の毛を耳にかき分けて、目ははっきりと開いているのにどこか遠くを見ながら両手を膝の上に重ねる。
何か神聖なものを見ているようで、時代が違えばロダンは考える人のポーズを今の彼女の姿にしていただろう。
数十秒が経過していつも通りの少しの高貴さといつも通りの目の前を見る視線が戻っていた。
しかし、彼女からかけられた言葉は「秀諦めて掃除しよ」だった。あの数十秒の本気の思考も虚しくごり押しをしてくる。
こうなってしまった彼女を説得することは僕には不可能なので仕方なく掃除を始めた。
元々そんなに広くないということもあり、二人で掃除をすれば思っていたよりもずっと早くに片付いた。綺麗になった部屋は少しだけ空気がいいような気がする。
少ししたら家のインターフォンが鳴った。
ドアを開けると見慣れた人たちが僕の前に立っている。彼女の両親だ、ハーフの美人で陽気な母親に、寡黙だが背が高く気品のある父親、二人ともいつもより硬めの衣装で緊張感がただよう。
適当に挨拶を済ませて、リビングへと二人を通す。
「二人とも入学おめでとう、でも酷いよ入学式教えてくれないなんて」
「すみません、凉が同じ高校に行くというのも最近知ったばかりで」
「あれ、凉ちゃんからは秀君に誘われて一緒に行くって聞いたけど」
どういうことだ、思わず凉の方に目を向ける。すると金色の少女はばつが悪そうに窓の方へとわざとらしく目を逸らした。
しばらくして少女は不貞腐れながら口を開いた。
「秀が昔『黙って俺についてこい』ってよく言ってたもん」
たしか幼稚園生くらいの時にかっこを付けて良くヒーローの真似をしていたと親から聞いたことがある、言った記憶はないがきっとその時のセリフなんだろう。
せっかくの良い記憶力をこんなところに使わないでほしい。
「まあ凉ちゃんがそれがいいなら私たちは構わないわ」
「ママ優しい」
納得されたのが嬉しかったのか彼女は視線を窓から母親へ移し、目を輝かせていた。
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