第10話 ペット扱いされている先輩はなぜか僕の事を同類だと認識している

「鷺ノ宮くんも僕と同類なのかい?」

天川先輩の目を盗み変態(常世先輩)が話しかけてくる。

「断じて違います」

「僕にはわかるよ」

「絶対にわかってないじゃないですか、っていうかこの前とキャラ違くないですか?」

「愛咲を怒らせると怖いんだよ」

「どんだけ怖いんですか?」

「この前この犬になるのを断ったら、『助けて!ロリコンよ』って叫ばれそうになった、本当に怖い女だ」

 見た目ほぼロリである天川先輩にそんなことを言われてしまえば本当に通報ものだ、想像しただけでなまはげに追い回される以上の恐怖は余裕であるだろう。


「君もそんな感じなんだろ、鷹川さんが愛咲同じ波長で話せているところをみると君が苦労しているのをどことなく感じるよ」

 もしかしたらこの先輩は本当に僕のことを理解して、同類と言ってくれているのかもしれない、事情も知らずただただ変態扱いしたことが少し申し訳ない。

「先輩本当にお疲れ様です」

「ありがとう、君ならわかってくれると信じてたよ」

「さっきから私の目を盗んで何話してたの?」

「愛咲違うんだ、後輩と交流したくって」

「なんで私の許可なく人の言葉を話しているの?」

 天川先輩は笑顔だった、対照的にどんどん笑顔を失っていく常世先輩の顔はどこか哀愁が漂い、最初にあったときに見せたカッコよさを少しだけ取り戻していたような気がした。


 そんな様子を見ていると、制服の裾が引かれた。

 後ろを振り返ると天川先輩と同じような笑顔をしている金色の髪の毛をした背の高い女の子の姿が目に入る。

「秀、私もあれやりたい」

「どれのことだ?」

「愛咲ちゃんと同じやつ」この幼馴染はなんて馬鹿のことを言い出すのだろうか、目の前で行われている非人道的行為を彼女は楽しい事だと感じて、ましてや自分も同じことをやりたいと言っているのだ。

「相手は?」

「秀」

「なんで?」

「幼馴染だから」

 凉は今日一のテンションでそんなセリフを言った。

「ちなみにアレ常世先輩は金貰ってやってるらしいぞ」

 ここを切り抜けるには嘘をつくしかない、嘘は出来るだけ付きたくないが子の幼馴染を黙らせるにはそれしかないだろう。

「秀はいくら欲しいの?」

 10数年という時間一緒に過ごしていたから忘れていたがこの少女の実家はお金が有り余るほどある家だった、金銭を使っていいものを知らないらしい。

「お金はいらないんだけど、一回考え直さない?」

「分かった」

 彼女はそういった後、黙って先輩たちの会話を聞いているようだった。


「凉お待たせ、ちゃんと圭と話したから」

「うん、愛咲ちゃんともっと話したい」

 二人が意気投合している間にこちらも常世先輩とコッソリと再び会話を始める。

「先輩大丈夫ですか?」

「大丈夫だと思いたい」

「犬ごっこって実際何をやらされてるんですか?」

「知らないほうがいい事があることを君はそろそろ知っている年齢だろ」

 どこか遠くを見ながら先輩はそんなことを言った。

「もうこんな時間かこの後予定があるんだ、今日はこの辺で僕たちは失礼するよ」

 目の前の変態はそんなことを言った後ワイシャツとブレザーをどこからか持ってきて身に着け始める。

 そこからは早くこの前見たカッコいい先輩に戻り天川先輩を連れてそそくさと何処かへ消えてしまった。


「俺らも帰るか」

「うん」

 帰り道の凉は終始ハイテンションで天川先輩の事を語っていた。しかし、そのハイテンションな言葉とは裏腹に家に近づくにつれて彼女の足が重くなっているようだ。

 結局彼女は自分の部屋に戻らずなぜか僕の部屋の中まで入ってきた、理由を聞いてもとぼけたような顔をしているだけで何も言わない、きっと彼女の親が来るまで一秒でも長く時間を稼ぎたいとかそんなことだろう。

 

 一人暮らしの貴重な時間が削れてしまうが、今日は楽しそうな顔を見せてくれた幼馴染に免じておいしい紅茶でも出すことにしよう。

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