第5話 変な女にはまともな男がそばにいる
ブランコに座り猫をなでる彼女を奇妙な美しさに取りつかれたかのように見て立ち尽くす。
「あなた珍しいわね、こんな少女に話しかけたら不審者に間違われるとか考えなかったのかしら?」彼女に話しかけられて深い眠りから覚めた時のように我に返る。
「すみません、本当に心配だったので」
「面白いわね、正義感強いっていうのかしらそれとも真面目なだけ?どっちでもいいわ、とりあえず名前を教えてくださる?」上品に彼女は笑いながらそう言う。
「鷺ノ宮秀といいます」
「変わった名字ね私は天川 愛咲(あまかわ あさき)覚悟があるなら愛咲って呼ぶといいわ」何の覚悟だろうか、少し気になる気もするがここは年下らしく天川先輩もしくわ天川さんと呼ぶのが正しいだろう。
「何かわからないので覚悟はないので、天川先輩で行きます」
「あら、あなた年下なの?背がやたらと高いから年上だと思ってたわ」確かに自分は背が高いほうではあるが特別大きいわけではない、現に異性の幼馴染にすら身長を越されているほどだ。それに天川先輩からみたら誰だって背がやたらと高いように見えるだろう。
「あ、迎えが来たわ」
彼女は先ほどまでの凛々しさを感じさせる表情とは打って変わってまるでお気に入りのおもちゃを与えられた子供のような表情になる。
彼女の見ている方向に視線を合わせてみる、すると背の高い眼鏡をかけた男が僕の真後ろに立ってた。
「やあ」びっくりして声が出ない僕をみて男が声をかける。
「こんにちは僕は常世 圭(とこよ けい)驚かせるつもりはなかったんだごめんね」
「鷺ノ宮秀といいます」ついさっきと同じ名前だけの短い自己紹介を済ます。
「圭遅いじゃない、私の犬なんだから私を待たせずに早く来なさい」天川先輩はさっきの落ち着きにもどり常世さんに対して強く言い放った。
「だれが、君の犬だ。僕は君の犬になった覚えはない」こっちはさっきの優しそうなお兄さんと違いやや強めの口調で天川先輩にそう言う。
「秀よく覚えておきなさい、この男は私の犬で私のことが大好きなの」
「愛咲、適当なことを教えるのはやめてくれ」
「あら、半分くらい本当のことじゃない、だって圭は私の言うことはなんでも聞いてくれるじゃない」天川先輩がそういうと常世先輩はばつが悪そうに言葉を詰まらせ、こちらをちらちらとみてくる。
こっちもどう反応すればいいのか分からず苦笑いを続ける。
初めて二人の会話を見る僕でも常世先輩が天川先輩に振り回されているのを感じ取るのは火を見るよりも明らかだった。
「とにかく、愛咲帰るぞこんな時間に外にいてもあまりいいことはない、鷺ノ宮くんも気をつけて帰るんだよ」
「秀また会いましょうね」
僕が苦笑いしているうちに常世先輩は天川先輩を連れいき、残った公園はとても静かに感じた。
残りの帰り道を歩く、今度は猫にも少女にも遭遇はしなかった。
家に帰り、シャワーを浴び、風呂に入る。水を浴びながらさっきあったことを何となく考える、先ほどあった二人の楽しそうに振り回す女の先輩と振り回される男の先輩、どうにも他人事のようには思えない。
なんとなく心の中で常世先輩に敬意を払う、僕は風呂から上がり布団に入る、寝付きがいいタイプではないが今日は引っ越しの疲労もあってかすぐに眠りに入った。
太陽の光がカーテンの隙間からあたり、目を覚ます。とてもすっきりとした目覚めで、直前まで内容は覚えていないがかなりいい夢を見たのを覚えている。
時間を確認しようとスマホに手を伸ばそうとするととても心地の良い「おはよう」という声とともに美しい金色の髪が視界に入った。
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