第4話 夜の公園には美しい女がいると相場が決まっている
凉が家に帰り、少しずつ荷解きを始める。
昼はやる気にならなかったが学校が始まるまであと一週間、そして幼馴染が隣に越して来るまであと一日もない、彼女がいたら邪魔をされてそれどころじゃなくだろうし、学校が始まればだらだらと荷解きをしない、やれることは今のうちにやっておこう。
持ってきたものは最低限だったため荷解きは手を進め始めると思ったよりも早く進んだ。実家を出てきて初日、荷造りをしたのは一週間近く前だ、ものを見て思い出に浸るのはその時にすましている。
荷解きがほとんど終わったころ、一枚の写真だけが僕の目に入ってきた、それはもう会わないと思っていた人が写ったものだ。
その絵画のように美しい写真を見ていると思い出すことも考えることも降ってやまなくなる。
その人から距離をとるために僕はこの町に引っ越してきた。僕の才能が唯一ないことを知っていて、僕が知る限りもっとも天才と呼ぶに相応しい人間。
彼女は才能がない僕のことを肯定した、だからこそ僕はその人のそばにいてはいけない、自分自身を守るためにもその人に相応しい場所にいてもらうためにも、僕はここにいる。
これ以上のことを思い出しそうになった時点で僕は写真を見るのをやめて、そのまま写真を引き出しにしまう。
ふと時計を見ると手が止まってから結構な時間考え事してたことに気が付く。残りの荷解きをややハイペースで終わらせて、汗を流すためにシャワーを浴びようと脱衣所に行くとボディソープとシャンプーを買い忘れていたことに思い出した。
昼間行ったスーパーまでの通り道に薬局があったな幸い今から行けば営業時間に間に合いそうだ、考えてる時間こそもったいないので買いに行くことにしよう。
夜特有の冷たい空気と星を隠すように散らばった雲、ピークを過ぎて人が減ってきているであろうカフェ、変わらず明るいコンビニ、昼間には見えなかったものを見ながら薬局へ向かう。
駅前はさすがの明るさでまだこの時間帯では活気があるように感じられた、いろいろな場所を見ながら薬局へ入り、目当てのシャンプーとボディソープを手に取る、特にこだわりはないので、安くてオススメ品書いてあるものを選んだ。
レジ前に行くとお菓子が並んでおり多少の罪悪感を抱えつつも一つ手に取りそのままレジへ向かった。
スマホのブルーライトを見つつ帰り道を行きよりゆっくりと歩く、視界の端の歩いている猫に気が付きなんとなく視線で追っていく、帰り道が一緒なのか僕の家の方向に猫が先に向かっていく。
小さな公園に猫が入っていく様子が見え、そのあと猫はブランコに座っている少女の方へ寄っていった。
こんな時間にあんな小学生くらいの少女がいることの注意を含めた声掛けをするべきか声をかけて通報されないかという究極の問題を考える。一応不審者に間違えられた時のシミュレーションを脳内で始めて見るが、それが終わるより答えが前に僕の中で答えは出ていた。
「こんばんわ、こんな時間に一人?」
「猫がいるし、もうすぐ待ってる人が来るわ」少女は猫をなでながら微笑んで答える、こちらを警戒している様子もなく通報されるというリスクは考えなくてよさそうだ。
「心配してくれるならありがたいけど、大丈夫よ。私高校二年生だから」そういってこちらを見た彼女からは街灯のせいか、凛々しさと僕がよく知っている引き込むような美しさを感じた。
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