第2話 家事をする気がない幼馴染さん

 リビングにある食卓の椅子に彼女は腰かけ、視線を下に落とす、僕はそれに応えるように反対の椅子に座る。

 なぜ凉がここにいるのか、なぜ鍵を持っているのか考えることは山ほどあるが今は彼女に帰ってもらうことを考えよう。


 「凉どうしてこんなところにいるんだ?」

 「幼馴染だから」

 「その言葉は魔法じゃないんだぞ」

 彼女は少し口がもごつかせたあと「幼馴染は隣に住まなきゃいけない、私と秀が離れるのは絶対ダメ」と強い意志を見せる。

 離れてもいいと思っているのはどうやら僕だけのようだ、いい悪いは別として僕がこの家に引っ越してきたことを彼女は良く思っていないのかもしれない。 

 「隣に住まなきゃいけないって、高校が家から遠いからここからじゃないと通えないんだよ」

 「それは知ってる」

 彼女は自信満々に言い、長い金色の髪の毛を触りながらもう一度口を開いた。


 「だから私もこの隣に住む」

 彼女の口からでた言葉に驚きが隠せず、思考が進まない。

 戸惑っている僕を見て彼女はそのまま「ついでに秀と同じ高校に入る」と更に衝撃なことを言い放つ。


 「一つずつ説明してくれ」と僕が言うと彼女はやや困ったような顔をして、ゆっくりと話を始める。それを要約すると、いつものように僕の実家に侵入したところ、僕がいないく、そこにいた僕の両親から事情を聴き、自分も同じ高校に入ることにして、僕の隣の部屋に住むことにしたらしい。

 僕が引っ越してからまだ数日だが、同じ高校に入れていたり、部屋を借りたりは凉の親の権力を使いどうにかしたのだろうか、考えられることはいくつかあるが触れてはいけないの所なのだろう。


 決めたことはなかなか変えない凉なので僕が説得することなどは無駄で、きっと明日には荷物までしっかりと隣の部屋に運び込まれて住んでいるだろう。

 「秀、なんで私に言わずに引っ越しなんてしたの?」

 「まあ、ちょっと親に甘えられない環境にしたくてな」本当のことなんて言えるはずがない。

 「私は親じゃないから大丈夫」

 「どうせ、また凉が僕に甘えるんだろ」

 凉はその言葉を聞き当然だともいわんばかりの表情をした。

 「たまには何かしてあげる」

 とてもふわふわな言葉が耳に入ってくる。せめて自分のことをしっかりやってほしいが、今までの15年とちょっとという膨大な時間がそれが叶わないことを理解させてくれる。


 「具体的には何をしてくれるんだ?」

 「きっと何か」

 「料理とか?」

 「秀のがおいしい」

 「掃除とか」

 「秀の担当」

 「洗濯とか」

 「たまになら頑張る」

 この回答を不器用な彼女なりに何かする気はあるらしい、という意思表示だと受け取るのは自分勝手だろう。

 でも少しの期待と沢山の不安を持ちつつ明日からの、また幼馴染が隣に住んでいる生活を目の前の少女を見ながら考えることにした。

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