僕の芝生は青くない

仙次

第一章 隣の幼馴染は青く見える

第1話 新しい日常、なぜか知ってる顔

 生まれてから僕はある程度不自由なく生きてきた、勉強も運動も平均以上もしくは中央値よりちょい上くらいに収まり、友人もめちゃくちゃ多いというわけではないがそれなりにいる、100人に聞いたら99人は僕のことを幸せな人間だと答えるだろう。

 そう、99人はそう答えるのだ。この幼馴染を除いて


 地元から逃げるようにしてこの町へ一人暮らしを決意した、生まれ育った町から電車で1時間半、住んでいた町よりは田舎、23区内なので全国でいえば十分都会なのだろう。


 多くの住宅と少しの緑、来るときに見た駅前には十分遊ぶ施設も整っている、高校生には贅沢すぎる1LDKのアパートを親から与えられた。


 どうやら親の友人の持ち物らしくたまたま安く貸してもらえているらしい、そんなことがあって今日から夢の一人暮らし、もちろん大変なことはいっぱいだろうがそれ以上に、僕の胸は期待で膨れ上がっていた。


 新生活の始まりで天気が良いというのに荷物をほどく気にもなれず、街を見回ることにした。新調した靴下をはき、その上に履きなれたスニーカーを履く。


 最後になんとなく靴紐を結びなおして上を向く、黒いアルミでできた何の変哲もない玄関の扉、その扉はどこか緊張にも似た期待や興奮を引き立たせてくれるようだった。


 「ガチャ」という音を立てて扉を開ける。

 目に沢山の光が飛び込んできて一瞬目が眩む。澄んだ空の色がようやく見えるようになるとその次に目に入ってきたものから僕は目を逸らすようにドアを閉めて鍵をかける。


 「私、開けて」

 頭が真っ白になり、五秒くらいたった後息をのみ、思考をする。

 

「私、開けて」

 さっきと変わらないトーンの声がする、これは怖い夢だろうか。


「カチッ」鍵が開く音がした、何もわからないままドアを抑えようとする、しかし抵抗むなしく抑える前にドアを開けられてしまう。


 目の前には180cm近い、金色の髪をした見慣れた人物が立っていた。呆然としている僕を見て、彼女は「なんで開けてくれないの?」と声をかけてくる。

「その前に、なんで鍵もってるの」

「幼馴染だから、なんで開けてくれなかったの?」

 彼女、鷹河凉のことで理解が進むことはない、それどころかわからないことが増えていく。


「驚いてごめん」

 何も悪いことをした覚えはないが凉に圧倒され謝ってしまう。しかし、彼女はその言葉を聞くとどこか満足気な顔をしてリビングへ進んだ。


 「また、よろしくね私の幼馴染」彼女は微笑むように僕に声をかけた。

 ああ、僕の期待していた想像の生活はどうやら本当に想像の世界だけで終わってしまうかもしれない。

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