第5話 自由都市アレン ①

かなり高度な魔法組織、術式を必要とする高等魔法ポータル。ズワールドの誰しもが使えるわけではない。元来、ズワールド民は、農耕の発展の為に、雨を降らせる、晴をもたらす、など。戦闘向きとはけして言い難い魔法を行使していた。しかし、他国との競争や戦争に対抗するべく6属性を駆使した攻撃を主に扱っていた。

その中でも特に恐れられていた転送術は、任意の場所から攻撃を行うことができる。チート的な存在だ。


混濁した意識の中、彼らはマリア・ズワールドの助力あってズワールド領地まで逃亡することができた。


ミノル「、、、、、。ううっ。」


ヴィクトリア「何とか、、、、逃げきれたようですね。」


エバ「らいろうる。。。」


皆、体中を駆け抜ける痛みと疲労感に耐えていた。


ヴィクトリア「はっ!!!マリア!!!マリアは?」


ヴィクトリアはそれを押しのけ友を一番に気にかけていた。


ブラウン「マリア様なら、、、、ここに。」


赤いドレスは、血と泥にまみれ、失った両足からは未だ出血が止まらない様子だ。


ヴィクトリア「ミノルさん!早く治癒を!!」


ミノルは、重たい体を起こし”癒せ”と唱えた。


(多少の無理ならいくらでもやってやるさ、今一番歯がゆい思いなのは間違いなくヴィクトリアさんやブラウンさんだ。)


助け合いの精神は、ミノルの幼少期から培われたものだ。炭鉱で働く男たちの気前は心地のいいもんだった。働いている時間こそがミノルにとって不当な扱いから免れられる時間だ。


ミノルとて無傷ではなかった。流れる血を見てブラウンは問いかけた。


ブラウン「ミノル殿、あなたも万全ではありません。くれぐれもご売りはなさらないように。」


ミノル「きっと、、、、、親父ならこうすると思ったから。」


ブラウン「、、、、、、、、。ズワールド国王に変わり、感謝を申し上げます。」


ヴィクトリアは唖然としていた、何もできない状況、裏切り、指名手配、気品のかけらもなく口を開け、目に光はなくただ途方に暮れていた。


エバ「おれえちゃん、、、らいひょうふかひょ、、、。」


エバは心配しているようで、ヴィクトリアの腕を引っ張っている。


ブラウン「ヴィクトリア!!!!!!」


唐突にブラウンは叱責した。ヴィクトリアは、よほどびっくりしたようで固まってしまった。


ブラウン「あなたがそのようなことでどうするのです。口を開けていても奇跡はやってきません!!まずはできることを探しなさい!背筋を正しなさい!!!」


ヴィクトリアは、幼少期ブラウンより剣術や魔法、礼儀作法などを学んでいた。執事という立場ではあるが先生でもあり。時には友のような存在。それを思い出した。

ヴィクトリアは、開けていた口をきゅっと閉め、徐に立ち上がった。涙を拭きとり

少し息を吸って、


「わかっています。ブラウン、民間人の手助けをもらうましょう。近くの町まで移動の手筈を整えて。」


先ほどの誰が見ても醜態を忘れたかのような別人のような態度。

ブラウンはただ、目を伏せ

ブラウン「はっ。必ずや探してまいります。」


異国のシノビを思わせるような速度で走り出し、木々を伝ってブラウンは去った。



ヴィクトリアは、ブラウンが去ったのをみて崩れ落ちるように座り込んだ。


ヴィクトリア「はあ、、、、。」


ミノル「深い溜息ですね。」


ヴィクトリア「ブラウンはああやって私を勇気づけるの。昔からそうなのよ。ちっともスマートじゃないわ。疲れるもの。」


ミノル「いや、見事ですよ。ヴィクトリアさんも。ブラウンさんも。」


治療に手いっぱいなうちはほかの魔法は避けた方がいい。ヴィクトリアさんがそういうので、エバとヴィクトリアさんで薪を集めてもらった。この辺りは針葉樹林が生い茂り乾いた草木がたくさんあった。

少し冷えるが、アキレス山脈にあるこの場所は、獣も多く、待つ分には困らない。


エバ「らくさん!!」


ヴィクトリア「戻りました!マリアの具合はいかがですか?」


巻を降ろし、マリアの顔色をヴィクトリアは覗き込んだ。


ミノル「止血は、問題なく。でも失った血が多いのか、意識は全く戻らない。」


ヴィクトリア「、、、。ブラウンを待ちましょう。」


日はだんだんと落ち、肌寒さが一層増した。ブラウンさんは無事についたのだろうか。





  「ああ~~~~~!!!もう!!!」

悶絶しているのは、ヴィクトリアだ。火おこしをやらせてみたのだが、何不自由なく暮らしていたヴィクトリアには至難の業のようだ。


ミノル「あ、あの~。ヴィクトリアさん?ぼ、僕が代わりに、、」


ヴィクトリア「いいえ!!私がしっかり火を起こして見せますわ!!ぜっっっったいに!!!!」



額に汗がにじんでいる。まあ、もちろん僕もうまくいくかわからないが。こう、、、、なんというか、ヴィクトリアの動きを見て、体がむずむずしてくるのだ。


ミノル「あ、そういえばエバは?」


ヴィクトリア「さっきまで私をみてにやにやしていたのですが、、、」


???「クエエエエエエエエエエエ!!!」


獣の断末魔が森に響き渡った。


ミノル「な、なんだ??」


ガサガサ、、、、。ドン!!


目の前には、大きな鹿が泡を吹いて死んでいた。


エバ「に~~~~ひひひ~。」


ミノル「エバ!?!?!」


なんと、鹿を仕留めたのはエバだった。


エバ「ぬええええ!!まらひいちゅけれらかっらろ!?」


エバは、鹿の足を肩に担ぎ落胆したような顔をした。


ヴィクトリア「あっ、火?ご、ごめんねエバちゃんもう少しだからね??」


エバ「フン!!」


エバは、鹿を降ろし、ヴィクトリアの方へとおお腕を振って歩いた。


エバ「ふんふん!!」


ヴィクトリアに向けて追い払うように押し切ると


エバ「フウン!!」


シュ~~~~~と煙が出てきた。


ヴィクトリア「ああっ!!煙です!いま!今ですよ!!」


ヴィクトリアは懸命に息を吹いて風を送り、ついには火が付いた。


ヴィクトリア「はあーーーー!やっと!火がっ!」


その眼はまぶしく輝いていた。





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