第3話 踊る

ここは、ズワールド領フレア帝国との国境付近にあるリーフ村だ。フレア帝国の有事を察したこの村は、物々しい雰囲気に包まれていた。そこの喫茶店で今後について」詳しく聞いているところだ。


ヴィクトリア「ごめんなさい、ミノル。確かにあなたはチューナーであることはわかっていますが、この戦争にはあなたの協力が必要不可欠なのです。」


ミノル「でもヴィクトリアさん、俺はただの一兵卒どころか労働者だ。なんの戦力にもなりはしないよ。」


ヴィクトリア「それでも、マーリンにはなにか策があるのでしょう。人を嫌うあの人がお気に召したようですから。」


マーリンは、ただものじゃない。という獏前的なことは理解できるが彼のことは同時に”なにも知らない”ということも理解できる。


コンコン。とドアをノックする音が聞こえる。現れたのは、村長のムー。


村長「ヴィクトリア様、先ほど情報が入ってまいりました。そこらを飛び回っていた機動部隊が帰還し、なにやら籠城を始めたようです。」


マーリン「あまり時間はなさそうだね。」


ヴィクトリア「私の転送魔法を使えば攻め入ることは容易ですが。あなたの要望に応えのんびりと茶を飲んでいるのです。、、、、、勝算はあるんですね?」


マーリン「僕の力を見ただろう?まだ疑っているのかい?」


ヴィクトリア「、、、。」


ミノル「、、、、。」


ヴィクトリア「疑ってなどいません。あなたは最高の魔法師です。ですが、わが友マリア・ズワールドは我が国随一の魔法師です。彼女がもし、フレア側につくのであれば、苦戦を強いられるでしょう。」


マーリン「君は何もわかっちゃいないようだね。フレア帝国の陰謀を阻止する。それを手伝ってあげるって言ってるんだ。それは、目的を分かつということだろう?」


ヴィクトリア「、、、、また曖昧なことを!」


マーリンは飲んでいたコーヒーを空にして続けた。


マーリン「それに僕は、魔法使いなんかじゃないよ。」


不意に窓を見つめるマーリンは何かに警戒していた。


ズズズズズズズズンッ。。


大きな揺れを感じた。それは約3秒ほどの出来事だが収まると人々が不安の声を漏らし、騒いでいた。


ヴィクトリアは唇を噛み、決断した。


ヴィクトリア「一時間後に転送を開始します。それぞれ身支度を。」


ミノル「ヴィクトリアさん、、、。」


ヴィクトリア「ミノルさん。ごめんなさい、こんなことに巻き込んで。でもあなただけが頼りです。装備や身支度を済ませてください。私も、、、、そうですね。少し風に当たってきます。」





ミノルは急に一人になったようで少し元気になった。

ミノル「身支度って言ったって。これから死ぬかもしれないんだろう?」


村は、国境付近なだけあって、商業はそれなりに発展しているようだ。アーチ状に灯篭が飾られ、風になびいている。ここからフレア帝国に行くには剣岩の山を抜けるかフレア洞窟をぬけるしかない。人の整備がなされていない場所には魔物や危険がいっぱいだ。なのでここで装備を整え臨むものも多いだろう。


そこではフレアでは見たことのないものがたくさんあった。みたことのない服に見たことのない食べ物、それに見たことのないダンス、それに、、、、、、、女性がいっぱいだ!!男だらけの探鉱では一生お目にかかることのなかった光景だ!

でも、、


ミノル「こんなところでのほほんとしてる場合じゃなかったなあ。残念だけど生きてたらまた来よう。」


(まずは、身を守るための装備だな。銃弾や斬撃から身を守れるような。装備屋は、、、、。)


装備屋はすぐに目についた。兵士や旅人だろうか。何人か集まって会話をしているようだ。


「お兄ちゃん!!!」


すぐ真後ろで、少女が話している声が聞こえた。振り向くと、よく目立つ赤いワンピースに赤茶色の短めな髪をした少女が明らかにこちらをみていた。


(まさか、、、、俺に話しかけているわけじゃないよな。)


眼は確かにあったが、人違いを恐れ向き直り装備屋に入った。



ミノル「こんにちは~。」


にぎわった街頭に比べ室内は静かだ。鉄や鼻を突くような油の臭い。飾られている装備はどれもたくましく、男なら一度は着てみたいと思う品が多く飾られていた。


「はいはーい!」


中からは、中年の女性が出てきた。


「あらあら、旅人さんかい?どんな装備をお求めでしょう?」


(そういえば軍資金としてヴィクトリアさんからもらっていたのを思い出した。足りるんだろうか。)


ミノル「ちょっと待って、お姉さん。必要最低限でいいんだ。これだけしかないし。。。」


とりあえず袋から金を取り出した。

ジャラジャラジャラ。。。


「ちょっとあんた、こんな大金どうするんだい!?店の物全部とかいうんじゃないだろうね!?」


この世界の通貨は、コイン状に削られた鉱石で値打ちが決まる。もっとも価値の高い虹鱗石のコインが20枚ほど。感覚でいえば、10年は職に困らない金額だ。


(ヴィクトリアさん!?!?!?!)


「ふ~ん、そうかい!もしかして冷やかしじゃないだろうね?ま、こんだけあるんだったら、うちも最低限ってのは頑張らないとね。」


ミノル「た、助かります。」


「そのかわり!!贔屓にしておくれよ?そんで、装備は二人分でいいんだね?」


(二人分、、、、、。???)


ミノル「い゛い゛!?!?!?」


さっきの子供だ!?一体いつからいたんだ?

それにしてもなんでついてきたんだ。


ミノル「迷子?かな?お父さんとかお母さんは?」


少女「ふん、、、、ふん。」


少女、首を横に激しく振った。それに、少し不機嫌そうだ。


「そんなことよりあんた。これ、名刺だよ。ホランド装備店、店主のカスミだよ。」


ミノル「あっ、いや。普段は全然装備とか買わないし、その、、。」


カスミ「詳しい事情はいいんだよ。それより、またフレア帝国でなにかあったらしいね。いつもこのあたりをうろついてる帝国兵の姿が、見えないんだ。それに爆発音がしたり。何ともないといいんだけど。あんたも保護者なら、しっかり面倒見るんだよ。」


身体測定を終えた後、装備に手直しを入れるからとカスミさんは店裏の工房へと消えた。

(それにしても、、、。)


ミノル「なんでついてきたんだ?危ない人だったらどうするつもりだよ。」


少女「、、、。」


(だんまりかよ・・・・。)


ミノル「おとうさんとおかあさんは?」


少女「フル・・フル・・・。」


下を向いて、首を振った。


ミノル「迷子になったのか?」


少女「フルフル・・・。」


また首を振った。


(迷子じゃないのか?)


ミノル「悪いけど、お兄さんは、、」


カスミ「おまたせ!!!できたわよ~!」


カスミさんの声で遮られたが、装備ができたようだ。



カスミ「うん!!!似合ってるよ?職人冥利に尽きるねェ!」


最低限といったものの、割かしいい装備なようだ。フレア原産の鉱石の中でも品質のいいもので作られた胴や脚の装備、機動力を持たせるために、関節部分は、ユリ鋼の鎖帷子を使っている。これが軽いんだ。調整液を入れるまでは加工が難しいものだが、よほど腕の立つ職人がいるのだろう。


カスミ「この装備には、魔力転送の印を刻んである。あんたの血を取ったのはそれを埋め込むためさ。」


(装備の着脱には便利だ。魔力を装備に込めて「帰れ」と命じれば自由に着脱ができる!最低限って、、、気合い入れすぎだよ、カスミさん。)


カスミ「さ!最後に武器だよ。そこの棚から選びな。」


(大剣に、片手剣、そんな中でもいろんな形があるんだな。曲剣に、刀身の細い剣。ん?)


ミノル「カスミさん、この剣は?」


稲穂のようにうなだれた剣、しかし刀身は鈍色に光り、だが細い刀身。見た目には合わず屈強そうだ。長さは、体の3/2くらいの大きさだ。間合いは変わり広そうだ。


カスミ「その剣は、珍しいよ。アマノムラクモって言ったかな。どうもここいらの剣じゃなさそうだし、シンプルなデザインながらわからないことだらけなんだ。取り扱ってるのもここだけらしいしね。」


ミノル「へえー。」


そのデザインに一目ぼれをしてしまった。


ミノル「これにするよ。」


カスミ「そうかい?ならその剣はただでいいよ。」


ミノル「え?」


カスミ「なんたって、このあたしでさえ完璧な手入れの仕方がわかんないんだ。どの文献を漁っても、見当たらないんだ。厄介者押し付けるようで、申し訳ないから。」


ミノル「じゃあ、お言葉に甘えて。」


その場では刀は抜かなかった。


カスミ「んじゃ、ひとしきりだね。あ、あとすまないけどその刀には魔法式は組み込めなかったんだ。おまけに、、、」


ミノル「ん?」


カスミは少女に駆け寄り、小さな短剣を渡した。


ミノル「あんたの許可がないと抜けないようになってるから安心しな。」


短剣を眺める、少女は不思議そうにこちらを見た。


ミノル「あ、そういえば、、、君、名前は?」


少女「エバ・・・!」


言い終えると鼻息を噴出した。なにか得意げだ。思わず微笑みがこぼれた。

その時、



ヴィクトリア「ミノルさん、まずいことになったわ。」


背後からヴィクトリアとマーリンが現れた。黒い眩暈のような転送魔法。


ヴィクトリア「フレア帝国で巨大な魔力を感じるの。今すぐに行くわ。」


ミノル「ええ!?急じゃないですか!まだ支払いが、、」


そんな押し問答の中、マーリンはエバを見つめていた。エバもまた、少女にはにつかわしくない表情で、マーリンを見ていたのだ。


ヴィクトリア「店主!!お支払いなら家臣にさせます。かたじけない!」


ヴィクトリアはそので始めてエバの存在に気づいた。


ヴィクトリア「その子は、、?」


ミノル「どうやら迷子らしい。自分では迷子じゃないって言ってるんですけど。」


ヴィクトリア「お嬢さん、あとで家臣に仕えに来てもらいますから、この店で待っていてください!」


(家臣、、、大変そうだな、、、。)


ヴィクトリア「行きましょう。ポータルを閉じます。さあ、入って!」


ミノルの腕を強くつかんだ。その力の強さに少し驚き転送魔法によって宙に浮いた。


気を失う瞬間右足に違和感を覚えた。朦朧とする意識の中見えたのは、狂気じみた笑顔で足にしがみつくエバだった。




意識の覚醒は、危機的なものだった。目を覚ますとフレア帝国の中心である、モアフレア城。の屋根を転がり落ちていた。


ミノル「ううううう、おおい!!」


間一髪瓦にしがみついて落下を防いだ。

(そうかどうやら城の上から攻める作戦なんだな。)

ふらふらと立ち上がると、少し上にエバがちょこんと向こうを向いて座っていた。


ミノル「エバ??」


エバの視線の先は屋根に大きな穴が開いており、マーリンが一人の女性を首を鷲掴み動きを封じていた。


ミノル「ヴィクトリアさん!!!」


ヴィクトリア「ミノルですか?無事でよかった!!」


ミノル「エバ、ここでまってて。」


エバは、コクリとうなずく。ミノルは、滑るように屋根を渡り、王の間に降りた。


マーリン「やっと起きたのかい。チューナー。」


マーリンは、女性の上にまたがり杖を光らせていた。


ヴィクトリア「マーリン殿!もういいでしょう!マリアはすでに戦えません!」


ヴィクトリアの眼には涙が浮かんでいた。口から血を流し瀕死な女性は、例のマリア・ズワールドだった。


マーリンは、瀕死のマリアに問いかけた。

マーリン「さ、例のチューナーもどきはどこだい?」


マリア「・・・。」


マーリン「ちっ。」


いらだちを隠せない。いや隠そうともしていない。マーリンは杖をトントンと二回叩くと、マリアの左足が吹き飛んだ。


マリア「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


マーリン「うるさいな。あと四回残ってるね。どうする?」


マリア「ううううっ。」


”トントン”


マリアは、驚き。その次に、右足も吹き飛んだ。


マリア「あああああああっ!うああああああああああああああああああ!!」


マリアはもだえ苦しんだ。だがマーリンの制止によりのたうち回ることも許されない。


ヴィクトリアは、泣き崩れた。決して騒ぐことなくすすり泣くように泣いた。


マリア「作戦は!!!!」


マリアは突如大きな声で叫んだ。


マリア「作戦は失敗した。力を書き換えたチューナーとその媒体になった王は、死んだ。」


マーリン「はあ、、、、、。少し遅かったか。」


マリア「くっ・・・。」


マーリン「それで、宝具は。」


眼を伏せた。マリアは、悔しそうな顔をして。


マリア「宝具は、、、、、。消滅した!!!」


マーリン「はあ。やってくれたね。お嬢さん。」


立ち上がりマリアを蹴り飛ばす。吹き飛んだあとヴィクトリアは素早く駆け寄り言葉をかける。


ヴィクトリア「マリア、、、、。なんでこんな。」


ヴィクトリアは泣き崩れた。目を閉じたマリアに突っ伏して声を殺していた。


ミノルの体はすでに動いていた。マーリンをめがけ一直線に走り、刀を抜いて切りかかる。技も何も関係ない。ただ。感情の赴くままに振りかざした。


マーリンは、安心したような顔を見せ、刀を受け止めた。


マーリン「実力差がまだはっきりしないようだね。僕らに逆らうとどうなるか知らずに。」


ミノル「なあ!マーリンさんよオ!!説明してくれるよな???」


ギチギチと音を立て鍔迫り合いが行われる。しかしマーリンの力をすさまじくあっけなく押しのけられる。


マーリン「フム。どうしようか。変わりはすぐ用意してくれるだろうから。」


顎に手を添え考え始めた。


ミノル「何言って、、、。」


マーリン「とりあえず、君らはここでくたばってもらうね。ご苦労様。」


マーリンは杖を振りかざした。神々しい光が当たりを包み込む。


マーリン「暖かい光だろう?これが神の温情さ。でも君らは外れてもらうよ。」


ミノル「うっぷ!うっ、ゲエエエエエ!!」


(血だ!?なんだこれ。)


力がはいらない。


”ボタボタボタボタボタッ”


激しく血が落ちる音。これはヴィクトリアだ。


ヴィクトリア「ミノル、、、、、、。グップッ、ウウウ」


マーリン「血と肉体が、拒絶反応を起こしてるんだよ。善人は神のもとでしか生きられない。」


マーリン「僕の上に立っていいのは、あの方だけなんだ。」


恍惚とした表情、性的な何かを思い浮かべているような表情で天を仰ぐ。

瞬間、マーリンからは白く巨大な翼が現れる。その羽は身体を伸ばすように大きく膨らみピンと張ると、光もさらに増した。


エバ「ちょれは、、、、どうかにゃ!!!!」


(凛とした声だ、いやでも発声が。というか誰。。)


マーリン「!?」


エバ「おまひぇのうへにまだじゃれかいるようだけろ??」


マーリン「ふざけるな!!誰だおま、」


マーリンの顔が一瞬で青ざめる。


しかし、大きく空気の敗れる音とともにマーリンは跡形もなく姿を消した。


ミノル「エ、、、、バ?」


吸い込まれるように意識が闇へ引っ張られる。ミノルやヴィクトリアは倒れ。静寂が現れた。いや、気を失ったのだ。


エバ「みちゅけといてよかっちゃじょい。」


マーリンの残した羽が宙を舞う。













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