第2話 信仰
ふっと地面から10cmくらいだろうか。少し浮いた場所で自我が覚醒した。間もなく地面につき自重を知る。
この重みが、命の尊さだろうか。まさか敵兵であるズワールド兵に助けられるとは、スドウさんは大丈夫だろうか。
ヴィクトリア「では、改めて。私はヴィクトリアと申します。」
礼儀正しい挨拶で、彼女の育ちに良さがうかがえた。
ミノル「あ、ああ!これはどうも、俺はミノルです。」
しかしこれは驚いた。俺らは敵国の奴らがこんなにいいやつとは聞いていなかったから。
ヴィクトリア「では先ほどもお話をしていましたね。現在フレア帝国とズワールドは、事実上戦争状態に陥っています。今もなおズワールドでは、フレア帝国へ向けて戦力をかき集めています。」
ミノル「そうなん、ですか。。。」
ヴィクトリア「しかし、無駄な血が流れることを私たちはよく思いません。そこでズワールド第一皇女様に掛け合い私たちで宝具の奪還をと命じてくださったのです。」
ミノルは、状況の整理で追いついていなかった。
???「そう、僕たちと一緒にね。」
黒いポータルから、一人のいかにも胡散臭い魔術師が現れた。顔立ちはとても美しく幼い少女と言われればその通りの顔立ちである。
背丈より少し大きい流木のような杖と、いくつもの線が絶妙な加減で入った黒いローブを纏っている。すこし大きすぎやしないか、着こなしているようには見えない顔までは認識できるが目を覆い隠すように黒い布を巻いている。。
???「私のことはここではマーリンとでも呼んでおくれよ」
ヴィクトリア「彼女、、いえ彼は、ルポレのものです。」
ルボレ、国ではなく人の為の救済をもたらすもの。各国の紛争、内戦に現れ人々を救ういわば国境のない軍隊である。その規模や正体は不明。もちろん、フレアではこの国については言及してはいなかった。
そいつはマーリンという名を名乗り、興味ありげにこちらを見ていたのだ。
ミノル「国の有事とはいえ、まさかあんたたちのような奴らが来るとは思っていなかった。それでほかの軍隊は?」
マーリンとヴィクトリアは顔を見合わせ
ヴィクトリア「いいえ、軍隊など用意する間もございませんでした。ここでともに戦うのは我ら精鋭部隊4名と、マーリンのみです。」
ミノル「、、、、。」
ヴィクトリアさんたちはともかくこのマーリンとかいうちんちくりんだけなのか???
マーリン「心もとない。。。って感じだね、ははは、わかるよ。量産と消耗だけが取り柄のフレア愚民には想像もつかないだろうね。」
言い返そうとした。が途中でヴィクトリアに遮られる。
「ミノル様、お気持ちはわかります。ですが、ミノル様。フレア帝国の損害をご覧になったでしょう。主要都市から離れた土地とはいえ十分な防衛力のあるこの町が、すでに半壊、いいえ、壊滅にまで追い込まれているのです。」
昼下がりだった、フレアライトと呼ばれる鉱石の採掘作業の休憩中、昼寝をしていたところ爆風によってたたき起こされた。あまりに急なことだったもので有事のサイレンもならず、ただ混乱していた。緊急避難施設への移動中物語の冒頭へとつながるのだ。
ミノル「あれを、、こいつ一人が、、、??」
マーリン「そうだね。できるだけ手荒な真似はしたくなかったんだけどね。」
ただ唖然としていると、ヴィクトリアが駆け寄ってきた。そして耳打ちし、
ヴィクトリア「正直なところ、現在ズワールド精鋭の力をもってしてもあのような破壊はできません。彼らの狙いはわかりませんが、おとなしく協力しているのです。。」
ミノル「、、、ははは!」
マーリン「???」
マーリンの破壊は半分は両国にとっての脅し。ズワールドには協力を、フレア帝国には牽制を狙ったというところか。
ミノル「それで、、マーリンさんとやら。あんたの狙いはなんなんだ?」
マーリンは振り向き、答えた。
マーリン「フレア帝国が、隠ぺいしているチューナーの抹殺だよ。」
フレア帝国はその国民の象徴として、白銀の眼を持っているがこの国に限ったことではない。ズワールドでも同じように、緋色のように赤い瞳を持つ。では、両国の者が交わった場合どうなるのか。100%の確率でオッドアイということはあり得ない。どちらか片方を象徴する色の国で生涯生きねばならないのだ。
’’チューナー’’というのは、生まれつき片方の目が黒く色のない目を持つ者のことだ。こういった事例は人類史でもまれであり確認されている数は不明。
マーリン「ヴィーさんは、とっておきを連れてきてくれたようだ。」
ミノルは思わず逃げ出した。マーリンから放たれる殺気にいち早く気づいたからだ。
すぐにズワールド兵が追いかけるとマーリンは片腕をあげ静止し、地面を杖で数回叩いた。
黒い波動が広がり、地面から無数の腕、いや蔓のようなものが押し寄せミノルをとらえた。
ミノル「くっそ!!!」
マーリン「自分がどんな存在か気づいたかい?まったく眼帯なんてこの世界じゃ要注意だよ。」
動きを封じられたミノルは、そのままゆっくりとマーリンのもとへ引き寄せられた。
マーリンはミノルの眼帯へとて伸ばし、その正体をあらわにした。
マーリン「やっぱり、フレア帝国のチューナーは君だったんだ。いつ見ても美しい作りだよ。天然の黒眼は。」
ヴィクトリア「、、、、。」
ミノル「俺を殺すのが目的なら、さっさとそうしろよ。こちとら生まれてから碌な目に合ってねえ。願ったり叶ったりだよ!」
マーリン「ううん?殺すのは君じゃない。もう一人、君の国がチューナーを匿ってる。そしておそらく、ヴィーさん。君の相方さんもね。」
黒眼は、悪魔の眼として恐れられてきた。神の書にも記載がある黒き眼の悪魔が世界を滅ぼす。と。
ミノルは出生時のことをあまりおぼえていない。ただこの眼のせいで、苦労することは多くあった。
ヴィクトリア「事実として、私もズワールドの宝具がどのようなものか見たことはありませんがその力を行使できるのは真紅緋色の眼を持つズワールド民、いえその中でも選ばれもののみ扱えると聞いています。」
ミノルははっとした。ヴィクトリアが行った魔法で自分の眼が熱く燃えるような感覚となり、赤い目になったと’’感じた’’ことを。
マーリン「フレア帝国は、間違いなくズワールドの宝具をわがものにしようとしている。その切り札として、ズワールドの王族でありヴィクトリアの友であるマリア・ズワールドを誘拐し、チューナーに目を何らかの形で映すことにより実現させようとしている。」
ミノルは、ようやっと状況を理解したが、疑問に思うことがあまりに多すぎた。
ヴィクトリアはうつむき、マーリンはその二人の表情を楽しんでいるように見えた。
ミノル「じゃあ、完全にフレア帝国が悪者じゃねえかよ。。。」
マーリン「まあ、少し前までそこに住んでたやつにそんなことはっきりいうのもなんだけど。まあ。そうだね。」
ミノル「、、、、、、。」
マーリン「理解に苦しむのも無理はないさ。一体だれがこんなこと吹き込んだのやら。。。」
ミノル「ひとついいか?」
マーリン「ん?」
ミノル「俺あんまり関係なくね??????」
マーリン「、、、、。」
ヴィクトリア「、、、、、。」
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