リョーグベル叙事詩

稲荷 壱鬼

第1話 緋色と白銀

「おい!何伸びてやがる!早く起きねえか!!」


中年のじじいから起こされたのは、爆音と地響きがなる冷たい土の上だった。彼は、ミノル。どうやら敵国の空襲に巻き込まれ気を失っていたようだ。

土煙の中、慌てて僕を担ぎいそいそと僕を運んだ。あのおっさんの名前は俺は知らない。


フレア帝国そこは名にふさわしく製鉄の熱気で絶えず燃え盛る国だ。たくさんの鍛冶師、技術者によってつくられる国防、侵略のための兵器や貿易のための工作機械は我が国の宝だ。

その国で俺は永久にただ働きに近い労働を強いられている。今年で21歳になる。優れた技術者は”研究側”に引き入れられるため友達は少ないんだ。


”ヒュ~~~~~ドーーーン!!”


とんと真横に爆撃が落ちた。いや爆発してないところを見ると、敵船か何かだろう。


年老いた軍人「グウウウッ、、、。」


今の衝撃で頭がさえたようだ。何やらおじさんは僕をかばって吹き飛ばされたらしい。


ミノル「おいっ!!大丈夫か!おっさん!」


年老いた軍人「い、いてえよ。足が、ううっ、やられちまったらしい。」


ミノル「はっ!」


軍人の足には鉄の欠片が刺さっていた。アキレス腱にきれいに刺さっている。


ミノル「くっそ!」


辺りの瓦礫を除け、寝かせた。


年老いた軍人「ぐうっ、ここはまた爆風の嵐だ。さっさと行け。」


ミノル「でも、おっさん足が、」


年老いた軍人「へへっ、足だけじゃあねえ。」


そういって腹部をさすった、ここまでかと悟った顔をしている。ジワリと滲む血が次第に命の終わりを告げる。


 

 先ほど落ちたのは、空戦専用戦闘機器ワルキューレ。中のパイロットはおらず緊急脱出したようだ。


それが目に留まる。


ミノル「おっさん、まだ目は瞑るなよ。」


軍人を抱え、ワルキューレに乗り込む。


年老いた軍人「これで飛ぼうってのか。でもお前さん、、、」


かぶっていたフードを取る、ミノルは眼帯を指でなぞり


ミノル「ああ、でもおっさんの眼なら大丈夫だ。」


フレアの民は代々、銀色に輝く瞳を持っている。他国に軍事力を真似られることを恐れた先代は、この民の眼を鍵として、その技術力を最小限に国家にとどめたのだ。


ミノル「おっさん、これ。」


認証用のマスクを軍人の顔に当てた。


”認証しました。設定パイロットではない為、攻撃用プログラムは作動しません。”


AIの音声とともにエンジンが作動。動力部分が薄く青に光る。


年老いた軍人「こりゃあ驚いた!お前さん操縦できるのか?」


ミノル「ああ!初めてだ!!」


適当にボタンを押しまくった後デュアルレバーを思い切り下ろす、瞬間ブースターが勢いよく噴射し空へ飛びあがる。


年老いた軍人「おお!こりゃすごい!!飛んでやがるぜ!」

割れたフロントカバーから風が入ってくる。

大半が風の音で自然と声が大きくなるくらいだが、


”バスンバスンバスン、、、”


ミノル「ん?落ちてるか?これ」


煙を吐きワルキューレは軌道をふらつかせる。


年老いた軍人「おいおいおいおいおいおい。。」


ガガガッガガガガッ


建物に、脚部があたりバランスを崩したまま墜落した。

どうやら敵陣営に落ちてしまったようだ。


ミノル「やっぱ難しいな。大丈夫かおっさん。」


年老いた軍人「ううう、くそっ、そこそこ大丈夫だ。」


???「フレイム!!」


機体が大きく揺れた。なにか燃えているようだ。外を見るとフードに身を隠した青年たちが隊列を組み、赤い魔法陣から炎を放った。


ドオンドオンドオン!!


年老いた軍人「ズワールドの軍人だ。まずい!お前だけでも逃げろ!」


ズワールド兵「もう一度だ!!フレイム!!」


次当たれば、機体はもう持たないだろう。必死に軍人をかばい、衝撃に備えた。


その時、空から何かが落下してくるのをズワールド兵は感じていた。

それより先にあの機体を!と打ち出した魔法は、別のワルキューレが止めたのだ。


ズン!!


拳を叩きつけるように着地したワルキューレは一機だけでなく五機。ミノルたちを庇うように降り立った。

攻撃を受けたワルキューレは目立った損傷もなく、機体の腕部分にまとった炎を振り払った。


???「無事か!!マイク!!」


ワルキューレから発せられるスピーカーは違う名前を呼んだ。


???「おい、マイクじゃないぞ!市民だ!」


???「なんでこんなところにいるんだ!マイクはどこだ!!」


年老いた軍人「どうやら、この機体の持ち主を呼んでいるようだな。だが、、一安心だ。」


軍人は、ぼろぼろの体を起こし正規のワルキューレの方に向かった。


年老いた軍人「わしは、第七軍隊一般兵のスドウだ!!逃げ遅れた!!助けてくれ!!一般市民も一緒だ。」


スドウは機体に向けて大きく手を振って助けを求めた。



???「アレン様、例の、、、。退却しますか。」


アレン様と呼ばれたフード姿の者は何も言わず見つめていた。



スドウ「おーい!助けてくれよ!」


そのうちワルキューレ弐式と呼ばれる黒く大柄な機体は銃口をこちらに向けた。


”ズドドドドドチュン!!”


スドウは、濡れ紙に銃弾を撃ち込まれるようにはかなく散った。

声をあげる間もなかった。脳漿が飛び出て、地面に埋まった弾丸。焦げるような匂いが立ち込めた。


ミノル「おっさん!!!!」


機体を飛び出し、亡骸に飛びついた。



この世界は、戦争の絶えない世界だ。大きく分けて4つの国は、それぞれ宝を有している。その宝が国に繁栄をもたらし、国土を保っているからだ。

だが人の欲はとどまるところを知らず、他国の宝を奪わんと争いあっている。まあ、もちろんそれだけではないが。

そんな中にも、希望はある。ルボレと呼ばれる革命軍だ。国を持たず、戦争に現れては巨大な力で両軍の損害を出し、消えていく。その姿から彼らには救世主、革命軍の名がついた。



パチパチと火花が静かになり、遠くでは重低音の爆撃が繰り広げられている。

こときれたばかりのスドウを抱え、状況の理解を優先する。


(生まれた時からこうだった。生まれつき片目がないから、軍人にも技術者にもなれず最低な人生だった。この国は価値のない人間に居場所はない。母さんも父さんもこの国に殺された。。。このおっさんだって。。。)


ミノル「くそだ、、、くそばっかだ。」


自分のこれまでの人生がフラッシュバックし、怒った。奮起した。今までのやり場のない感情が溢れた。こんな奴のために俺たちは。。。


???「黙ってたあんたが悪いんじゃな~い?クスクス、、、」


はっとだれかの声で正気に戻った。慌てて振り返るが声の主はいない。

幻聴、、だろうか。鋭く心に氷を当てたような声は、いたずら好きで陽気な女性のようで。



この世界はとある終焉を恐れ奔走する世界。終焉の書にある”解放者 emancipator ”。この世の宝具をすべて手にしたものは強大な力を持ち、あらゆるものを解き放つという。彼の者を待ち焦がれ、探し求める。この世の終わりから世界を救うものを。



各国はそれぞれの解釈を持つ。強靭の国フレア、魔法の国ズワールド、支配の国瞬光、永遠の国オーラル。自由の国アレン。

五つの国はそれぞれの宝具を有している。どんなものなのか、形、色、能力。何もわからない。


ワルキューレパイロット「ラムダ様、K地区での戦況が悪化していると報告がありました。


スドウを撃ち殺したパイロットはラムダをいうらしい。彼は、ワルキューレの機体上部にあるコックピットから姿をだし、ヘルメットを脱いだ。白銀に輝く瞳でこちらを見下す。ああ、そうだよ。あの目が国民をしての象徴。


ラムダ「私は、空撃隊第一部隊総長ラムダ。悪いが、市民の救助の余力はない。そこの老兵の因果だとでも思うがいい。」


ミノル「・・・は、?」


ラムダ「その腕章を見る限りただの労働市民だろう。ふっ、お前の代わりなどいくらでもいる。せいぜい生きながらえるんだな。」


そういい、コックピットに戻ると彼らは、粉塵をまき散らし空へ舞った。


なにも言葉が出なかった。そういった世界だとわかっていた。最初から期待なんてするはずもなかったのに。


ズワールド兵「私たちは市民の虐殺などしません。目的はただ宝具の奪還。」


ミノル「ちょっと待ってください!!!宝具の奪還??じゃあ、フレア帝国が他国の宝具を奪ったんですか!?フレアとズワールドは停戦条約中だったんじゃ、、、。」


ズワールド兵「私はズワールドの魔法師ヴィクトリア。このことは全世界で未だ知れ渡っていることではありません。この戦いに参加しているズワールドの兵たちは精鋭ですがほんの一部でしかありません。全面戦争になる前に奪還すると、彼らたちに協定を求めたのです。」


フードを降ろしたズワールド兵は何とも美しい顔をした女性だった。

ヴィクトリアはゆっくりと歩を進めスドウの亡骸にしゃがみ、寄り添った。


ヴィクトリア「今ならまだ間に合います。」

ポツリとこぼすように言った。


ミノル「ほ、本当ですか!!彼を、まさか生き返らせるとでも!」


ヴィクトリアはスッと立ち上がった。そして凛とした顔でこちらを見て、


ヴィクトリア「可能です!!ですが条件があります!」

息をのむミノルをみて、続けた。


ヴィクトリア「私と仮契約を結び、奪還の手助けをしていただきたい!!」


断る理由はなかった。失うものなんてこれ以上はない。


ミノル「今は、死すらも怖くない。ただこのおっさんのように犠牲は、正義のためじゃなければ意味がない。」


ヴィクトリア「了とした。では仮契約を結びます。はやく、手を。」


ヴィクトリアはローブの中から華奢な手を差し出した。

戦場では見たくなかった手だ。


その手にそっと手をかざすと同時に魔法陣が形成された。緋色のローブがたなびく、熱い何かが体に流れ込んでくる。

ヴィクトリアは、そっと手を握り、クルッとひっくり返しミノルの手の甲には、赤く紋章が浮かび上がった。


ヴィクトリア「歴代、この世界で炎を行使できるのは我々だけです。その力、使いどころを誤らぬよう。」


ミノル「これは一体、、、。」


ヴィクトリア「その眼も変わっていることでしょう。眼帯を外して見せなさい。」


ミノル「い、いや。この眼は、、、。」


大丈夫、といい。彼女はそっと眼帯を外した。目の奥が何やら熱い。

眼を開くと、彼女は微笑んでいた。


ヴィクトリア「その緋色の眼は、我らのように魔法を行使する一族ズワールドの民の眼です。」


そういいながら、スドウのもとに駆け寄り魔法陣を形成させ、スドウの体はフッと宙に浮き輝く炎に包まれた。


ヴィクトリア「その眼は、この方にとってはいささか問題があるでしょう。眼帯をつけて。」


急いで、眼帯をつける。終わったと同時にスドウが飛び上がる。

なんと怪我も致命傷も跡形もなく回復していた。


スドウ「はっ!!!俺あ、死んで、、、ないな。」


ミノル「おっさん!!」


スドウ「ズワールド兵!?一体なんだ!!ううっ!カアーーーっぺ!!血の味がする。。。誰か水持ってねえか。」


ヴィクトリア「水ならここに。」


ヴィクトリアがスッと手を差し出すと、スドウの顎をめがけてジャブを決めた。

糸が切れたようにスドウは崩れ落ち。座り込んだ。


ヴィクトリア「今のでだいぶ魔力を消費しました。一度帰還します。」


ほかのズワールド兵は、花火のようにジュッと燃え尽き姿を消した。


ヴィクトリア「我々も行きますよ。さあ。」


ミノルが反応する間もなくこちらに詰め寄ってきたヴィクトリアは身体に当たる寸でのところで体の内臓が浮く感覚とともに意識を失った。残っているのはヴィクトリアの香りとその感触だけ。

























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