第二話
あれから数年たち、俺はようやく一人で立って歩き回れる様になった。ハイハイしか出来なかった頃はひたすら寝て食事を取るだけの拷問と言える生活だったが、行動範囲が広がり本やテレビを使い、この世界についての情報を得ながら、暇を潰す事が出来るようになった。
特にテレビで得た情報は、今世がどういった世界なのかを学ぶのに非常に役立ち、前世より遥かに進んだ技術を用いて、何度も生き返るプレイヤーが銃や刀剣を用いて殺し合うスポーツ「ガンスリンガー」という物が存在し、メジャーな物として扱われているのを知った。
テレビでそれを見るたびに、俺は夢中になっていった、何度殺されてもやり直せる戦場。見たことのない最新鋭の兵器に俺はどこまで食らいつけるのか、俺はいつしかこのスポーツのプロになるのが目標になった。
そんな、俺の生活はおっぱい、睡眠と一般的な赤ちゃんの生活といったものだったが、退屈することはあまり無かった。その理由は自分の置かれている環境にあった。上を見上げれば、ホログラムで形作られた様々な形に変化するベッドメリー。テレビから聞こえてくる、外宇宙探検、テラフォーミング、人の蘇生等、前世ではあり得なかった科学技術をテーマとしたニュース。そんな前世ではSF小説からしか味わうことの出来なかった世界を、現実として味わえるのは赤ちゃんといえども興奮し、幼い脳をフル回転させた様々な考えが頭を駆け巡った。そのせいか、恐ろしい眠気が頻繁に襲い来るようになり、前世ではあまり熟睡が出来なかったが、久しぶりに熟睡をすることが出来た。
「ッ〜〜〜…」
あくびが出た。
眠い。寝る子はよく育つという言葉の通りそろそろ寝ることにしよう。
……で、そんなことを繰り返す生活から数年。
俺の身体は充分成長し、中学生程度の身体になっていた。そう、なったんだ。数年で中学生まで。おかしいと思うだろうが、ここは未来。ハイハイをマスターし、ある程度の言葉を話せるようになった俺は、両親に連れられとある施設に行った。そこは「国立児童成長センター」という所で、そこではある程度の年齢に達した児童を、特殊な装置を利用し社会生活に必要な一般的な知識を脳にインプットすると同時に、身体を中学生程度まで成長させるという事が行われていた。
勿論、そこに連れられた俺も同様の処置を受け、この世界の一般的な知識と、健康的な肉体を手に入れることが出来た。
そのお陰で、買ってもらった個人端末を使い、インターネットを見たり、一人で街中に繰り出す事も出来るようになり、自分の足で見て回った未来の街は変化に富んでいて俺を退屈にさせなかった。
だが、一番の恩恵はプロになると誓ったあのスポーツ、ガンスリンガーについての様々な情報を手に入れる事が出来たことだ。
「ガンスリンガー」とは実弾を装填した実銃で生身の身体を撃ち合うスポーツ。技術の発展により死ぬ事が自殺以外無くなった事により、ふざけたアメリカの若者たちが実弾を用い、撃ちあった出来事を元にしたこのスポーツは、数々の批判を受けたものの、各動画サイトやSNSで拡散され話題となり、人が撃たれても死なないという事に着目した多くの若者が、スリルを求めて行い、アングラなスポーツとして行われていた。そこに目をつけたのが、不死化技術を開発したサルース社とNRA(全米ライフル協会)だった、このスポーツに商機を見出したサルース社とNRAは、このスポーツにガンスリンガーと名前を付け、ガンスリンガーを推進する為の協会を合同で作り、大幅な後押しをした。勿論批判はあったものの、人が死ぬことの無くなった退屈な世界で、得られるスリルに皆夢中になり、プレイヤーは勿論、プレイをしない者もディスプレイを通してガンスリンガー中毒になっていった。
そんな転換期から数十年。大きく広まったこのスポーツはすっかり社会に馴染み、その人気さにより社会システムの一部となっていた。
そして、今日俺は父親に連れられてこのスポーツを始めるために必要なライセンスの取得と銃器の購入を行う。
数多の戦場を駆け、数々の時代を作り上げた俺の技能が未来人共にどこまで通用するか楽しみだ。
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