1-C 『その部屋はさぞ寒いだろうマフラーを持ってきたよとドア越し伝える』

 の家のり駅が近づく中、心の中でうずいていた気持ちが大きくなっていた。『余計なお世話かもしれないけれど、一声だけでもかけたい』と。


「あの、あんちゃん」

「どした?」

「歌奈ちゃんの家、かえでちようの方、だよね」

「うん? ……ああ、そっか。止めはしないけど、すぐはおすすめしないよ」

「分かってるんです。でも、どうしても行きたくて」


 一つ手前で降りていくを見送って、あんが『似た者同士で世話焼きだねえ』とつぶやいていたのもつゆ知らず、早足で近くまで向かう。


「会わなくちゃいけない気がするけど、なんでだろう」


 はださむくなってきたにちぼつ後のかいどうを歩く。落ち葉も増えてきて、ぐんと寒くなりそうな時期。


「――『かしては導くような追い風でたち道行く私』……」


 ふと思いついた一首を、メモアプリに書き記してから見回すと、見覚えのある背格好の少女がいた。


「歌奈ちゃんっ」

「えっ、あれっ、ちゃん?」


 マフラーもせずふるえていた歌奈が鼻をすする。


「――風邪かぜひいちゃうよ」


 かばんからポケットティッシュを引っ張り出して、『これ使って』とける。あとこれも、これも、とあれこれ取り出すに、されるがままになる歌奈。

 伝えようとしていた言葉も忘れてしまい、なんとかひねり出した言葉が。


「ええと、あの。追いつけるように、ベースの練習、がんるね」


 手をにぎって、冷たい歌奈の手におどろいて、温めるようにこすった。さらに、もう一つと使い捨てカイロをにぎらせて、きびすを返して駅へと向かう。訳もわからずほうけたまま、完全防備にされた歌奈を放置して。


「何であそこまで持たせたんだろ……」


 やりすぎだったことに気が付いたのは、り駅に着いてからだった。マフラーもけてしまったので、寒いのは寒いけれども、逆にずかしさで体がってしまっていた。

 従姉いとことは、もちろん今もれんらくを取り合っているけれど、このことをいう気にはなれなかった。今どき、そういう感情があるのは分かっているし、その気持ち自体はほとんどの人が持ちうるものであることも。

 一方の歌奈が温かい気持ちになっていたことは、はまだ知らない。関わり始めてさほどっていない仲間なのに、さそったかのじよ自身を大切にしてくれる子だった。

 まだ少し引っかかる。それでも、その『導き』は確実に、歌奈の背中をしていた。

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