1-B 『ドアノブにちくりと走るいなづまに手を引く君の心見えずに』

 外はらしがきつけて寒かった。


「いたっ」


 駅の階段を上がろうとしたとき、手すりにかざした手に静電気が走った。空気がかんそうしているんだ。そう思うのうには、ファミレスでふさぎこんだ歌奈の姿がよぎった。


「……『もしも手を温めること出来たならかんのスープもらないのにな』、とか」

「あれっ、ちゃん。まだいたんだ」

「わっ」


 後ろからあんが追いついた。

 あのファミレスにいた間だけでも、いろいろ気をつかってくれているのは感じられただけに、思わずもへこへことおをする。


「あははっ、ちゃん小動物っぽい」


 いやけいだねえ、と横につくと、「行こっか」と階上を指さした。


 こっこっこっこっ。

 ……とんとんとんとん。


 あんのあとを行くように、も歩き出す。先をゆく足音のかんかくは、全くぶれない。まるで、メトロノームのように。


「テンポ、正確ですね」

「ん?……あっ、メトロノーム、耳で聞きっぱなしだった、ウケる!」

「あー……」


 片耳のBluetoothブルートゥースイヤホンのような、耳につけるタイプの電子メトロノーム。思わず、サックスパートのすいそうがく部員が時々やる、ストラップをつけっぱなしの光景を思い出し、は苦笑いした。


「まあ、テンポキープ大事だから」


 ずかしさのあまり笑っているあんは、コンコースのはんに向かうと、「おごるよ。何飲みたい?」と声をかけてきた。づかいの人だ、とほほみながら「オニオンスープのかんで」と答えた。

 ホームで各駅停車を待ちながら、スープをのどに通す。


「司せんぱいの事情を知ってるちゃんだから言うけど。せんぱいが親の転勤でだつするってなったとき、バンドとして痛手だったんだよねえ。ベースがいないと、がんって音を鳴らしてもうるさいだけだから」


 かんを飲みかけた手を止めて、あんの方を見る。


「でも、歌奈にはそれだけじゃなかったんだなあ、ってのはうすうす分かってる。でも、それを言うのは、本人が言いたいときに言わなきゃいけないことだしね。はるけするの、めっちゃ大変だったよ」


 そう言われている当の本人たちには、今日のらしはずいぶんと寒そうだなあ、と頭の中でツッコミを入れておく。


「でも、勇気が出なかった。空港まで連れて行って会わせたけど。分かってるだけに、私もうまく声をかけられないんだ」


 小さく『苦っ』とかんコーヒーをはなあん。ブランコのようにかんって、残りを飲み干した。ほどなくして、下りホームの放送が流れてきたので、もその残りをんだ。


「なんか、とつぜん引き入れた上に、苦労かけてごめんね」

「あ、いや。だいじようです……たぶん」


 んだ電車のだんぼうは、ほんのりと空気を満たしていた。となりで色んな話をしてくれる仲間のぬくもりのように。

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