1-A'『空掴み言葉にならぬ心臓の音は扉をノックするよう』

「というわけで、ちゃんでーす!」

「よ、よろしくお願いします」


 ファミレスで他のメンバーと顔合わせすることになった。

 あんが『ぱちぱちぱちー』とはくしゆすると、その向かいにすわはるも親指を立ててぶんぶんとる。


「私はあん、キーボード担当。ライブハウスとかの予約とか、事務的なこともやってる。見た目のわりに出来る子だよ!」

「自分で言うか! 実際そうだからだいじようだけど! んで、わたしははる。ドラム担当!」


 一通り自己しようかいを終えると、ぱんっ、と歌奈が手を合わせる。


「――はいっ、じゃあ、ちゃんの慣れもあるだろうし、いったん解散で。次は水曜日に練習ね」

「はあい」

「はーい」


 そういいつつ、せっかくたのんだフライドポテトがもったいないので、少しほおばってから帰ることにした四人。

 そのちゆうに通知音がしたあと、歌奈がかない顔をしていた。


「……歌奈、いつたんスマホせとけば?」

「ん……」


 あとの二人は事情を知っているようで、あんはてきぱきと歌奈のほうへ、ポテトを取り分けたり、ドリンクバーの飲み物をけたりしていた。

 何が何だかわからないも、手に事情をさぐるわけにもいかないので、大人しくしていた。そのそでを、くいくい、と引っ張ってきたのはあんだった。


ちゃん、『ゆみ つかさせんぱいって……ちゃんの……」

「あ……従姉いとこ、です」

「やっぱりー……この子、ちゃんをさそってから気づいたみたいでさあ」

「あーごめん、わかったわかったから」


 その話題で盛り上がりかけたところで、歌奈が制止した。苦い思い出なのか、何度かうなりながらテーブルにしている。


「……先にベースのめんわたしておくよ」


 あんからわたされたのは二曲のがくタブ譜――がく上にフレット番号を示したもの――もていねいまれていて、から見てもみがしやすい。


「歌奈もマメだもんね。演奏でやりたいことがちゃんと書いてあるし、一応フルスコアもあるよ」

「へえ……」


 その横ではるが歌奈の指をいじって遊んでいた。


「あ、えっと……」


 何かを言おうとして、『余計なことを言いそう』と自ら止めた。

 いとこが話にからんでいるからだろうか、心がざわざわして落ち着かない。どうも少し強くなっている。


――これは、どんな気持ちなんだろう。


 言葉をんで、もう一度のどうるおすことにした。

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