飼い主さんいました
「ギャアアア!」
「うるさーい!」
鼓膜が破けるから騒ぐな馬鹿が!
ミノタウロスは私に向かって思いっきり斧を投げつける。
「危ないだろうが!お前先生に言われんかったんか、人に物投げちゃダメって!…いやこいつ人じゃないわごめん」
私はギリギリで避ける。
ガンッと大きな音を立てて斧が刺さっていいる。
(当たったら死ぬ奴ー)
当たる自分を想像すると背筋が凍る。
頭に当たったらグチャか。
「ヒェ…」
私は短い悲鳴を上げてミノタウロスの背後まで走る。
斧が無い牛は斧を取りに行く。それが攻撃のタイミングだ。
私は勢いよくアキレス腱のある部分を狙ってナイフを切りつける。
悲痛な悲鳴なのかは知らないがミノタウロスは咆哮をする。
「ギャアアアアアアアアアア!」
「うるせえって言ってんだろ牛がァ!」
私はキレ気味に叫ぶ。
本当に至近距離で叫ばないで欲しい。
腹いせにもう一度攻撃力を強化してナイフを力一杯刺す。
ミノタウロスは盛大に大きな音を立てて転ぶ。
砂埃が立って私は口に少し入ってしまいゲホゲホとむせる。
攻撃のチャンスだ、そう思い踏み込むと視界がゆがみ私は倒れてしまう。
「困りますよぉ私のハナコを傷つけないでくださいよー」
黒色のローブに身を包んだ人が気だるげな声で言う。
てか牛お前ハナコって名前あるんかそのごつい見た目でハナコか。
性別は女性という解釈で良いのだろうか?
「私のことはぁフレデリカって呼んでくださいなぁ」
フードを外すと白くて絹のように美しい長い髪が現れる。
片メガネが右目にかかっている。
私はその特徴的な話し方と見た目で思い出す。
フレデリカと言えばこの世界では有名人だ。
モンスターと会話ができる唯一無二の超人でモンスターしか愛せない欲情しない変態魔女。
「すみませんハナコ、さんを傷つけてしまい」
「お気になさらず。ハナコ気が立ってたみたいでぇ」
ハナコの頭をフレデリカさんは撫でる。
それを暴れることなく受け入れている。
先程まで死ぬんじゃないかと思っていた私の気持ちを返して欲しい。
「…貴方を出口まで送ります。ギルドに説明しないといけないでしょうし」
「はい…ご迷惑をおかけします」
「驚かないんですね私がギルドが来るって分かっていて」
「あ、本当ですね私何も事情言って無い」
もう疲れて頭が回らない私にはどうでもいいことだったのだろう。
「ハナコ歩ける?」
フレデリカさんの言葉に応えるかのようにハナコは首をゆっくり横に振る。
そういえば私アキレス腱に思いっきり刺したんだった。
「すみません私治します」
私はハナコに謝りながらヒールをかける。
傷に光が集まり傷を塞いでいく。
完全になくなったことを確認すると私はハナコの前に立つ。
「あの…さっきは切ってしまい申し訳ございませんでした!」
頭を下げて謝った。
「ハナコは怒ってないですよむしろ人を襲う前に止めてくれてありがとうって言ってますぅ」
「ハナコさん寛大過ぎないですか?」
もう天使に見えるあのストーカーと言う2つ名を持っているミノタウロスが可愛く感じてしまう。
もう攻略対象がハナコ…呼び捨ては失礼だな。
ハナコさんみたいな人だったら良いのに。そう疲労マックスな私は思うのだった。
そんな私にハナコさんは私の前に手を置く。
私は意図が分からず首を傾げる。
「ハナコが乗って良いよって言ってますよー。お仲間さんと合流するまでお休みしててください」
「お言葉に甘えて」
私はハナコさんの手に乗るとゆっくり上げてくれる。
優しい!ハナコさん優しいよ…!
「で先程言っていたなぜギルドが来るか分かったのかと言いますと、貴方の記憶を見させてもらいました」
「そんなことが」
「私これでも一応魔女の称号を頂いてますので」
誇らしげにフレデリカさんは言う。
「ハナコは私の助手なんですよ。この子には何回も助けられましたぁ」
心なしかハナコが喜んでる気がする。可愛い。
「お仲間さんと貴方って仲良しさんですよね」
「無いです」
「えー?嘘だぁー」
「先輩ってだけですのでそれ以上もそれ以下も無いです」
フレデリカさんは残念そうな顔をする、がそれはすぐに真顔になる。
「…ハナコ彼女を守りなさい」
「え」
突然低い声でフレデリカさんは言う。
ハナコさんは私を両手で包み込む。
「シールド」
何かがぶつかる音がするが見えない。
「おやおやついてないですねぇ。来ちゃいましたか」
「ユキナちゃん!」
ヒカリバ先輩の焦っている声がする。
「フレデリカさん!ハナコさん大丈夫です。味方です!」
「はーい。ハナコ」
私はハナコさんにお礼を言ってから降りて彼の元に走る。
「この人たちは悪い人じゃないです」
「そうですよー。私はフレデリカって言いますぅ」
フレデリカさんは上品にお辞儀をする。
フレデリカ。その名前に先輩と一緒に来た人たちはざわつき始める。
「ご迷惑をかけてしまい申し訳ないです」
魔女が頭を下げる姿を見て全員が困惑する。
後の報告はフレデリカさんがやるという話になった。
こうして私のダンジョンデビューが終わ…る訳無いでしょうが!
「先輩もう1軒行きますよ!」
「はしご酒感覚で言わないで…?」
「えー」
私が不満げな顔をすると先輩は少し困った顔をする。
「ね、ユキナちゃん」
「何でしょうか?説教はやめてください」
「違う違う」
良かったー!説教は無いみたい。
「そのまま動かないでね。俺が何しても怒らないでね」
怒ることって何しようと思ってんだ。
動いたらダメって怖いんだけど、何あるか分かんなくて本当に怖いんだけど。
「変な事しないでください…よ?」
先輩は私を抱きしめる。
鼻を啜る音がする。泣いてるのだろうか。
「…怖かった」
「あの、先輩?」
強く抱きしめてるせいで苦しい。
でも先輩の手が震えているのが伝わってきていつもみたいに強く言うことができない。
「それが最善だとしてもあんなこと2度としないで、自分も助かる道を選んでそうじゃないと俺…どうしていいか分かんなくなるから」
泣かせちゃったよ。
私がこれで良いって思った行動のせいで。
嗚咽を我慢して先輩は泣いている。
「先輩泣くなら思いっきり泣いた方が良いですよ」
「君のせいで泣いてるんだけど、君に泣かされた」
その言い方やめてください。私が悪いみたい…私が悪いけども。
とりあえず頭撫でとこ。
先輩の頭を私はできる限り優しく撫でる。
「ありがとうございます。私のこと心配してくれて」
「…もっと」
「はいはい仰せのままに」
今日くらいはお詫びとして我儘を聞いておこう。
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