ヒロインのステータスを見ると脳筋になれないのが分かる
「タイガお帰りー」
「ただいまっす!」
ヒカリバ先輩と恥ずかしがらず抱擁を交わすのは学園外部の仕事がメインになっているもう1人の先輩ナゴタイガ先輩。
パット見は超絶陽キャ。
本当の彼の顔を知っているからこんなに明るいのは違和感しか感じないが、気にしないでおく。
「ユウガそこの2人が新しく入った後輩?」
「そうだ」
ナゴ先輩は興味津々に私たちを見る。
ナナミくんは緊張しているのかガッチガチだ。
「お名前教えて」
「は、はい。セラユキナです!」
「ナナミカエデ、です」
この人ずっと私たちのことガン見するんですけど?!
怖いよせめて何か言ってよ。
「セラちゃんはサポートなんだ」
「へ?」
「あ、ごめんね俺、初対面の人は鑑定するんだ」
鑑定とはステータス情報を自分以外の人間が見るための手段であるって先生が言ってたな。
他にも使用用途の分からないアイテムの使い方も分かるという便利な魔法である。
「ナナミくんは反対にサポート系の魔法ないね」
「はい」
「覚えたかったら俺のところに聞きに来なよ」
「…!ありがとうございます」
何であんなにナナミくんは嬉しそうなのだろうか?
「ユキナちゃん何でカエデがあんなに嬉しそうなのか気になってるね」
「…そうですけど、何で分かるんですか」
「俺がユキナちゃんを愛してるから?」
「馬鹿なこと言わないでください、どう考えたって読みましたよね」
「なぁんだ、知ってたんだ」
知ってはいた別に気にするようなことでもないと思っていたし。
ヒカリバ先輩は人の心の声を聴くことができる数少ない人物の1人である。
声を聴くなんて精神に干渉することは並みの人間ではできない。
ヒカリバ先輩は精神力が異常なのが分かる。
「タイガはエンチャントのプロだからさ」
「私も教えてもらおうかな」
「俺にも聞いていいからね?!」
「どう考えてもプロに聞いた方が良いですよね?」
変な対抗心を持たないで良いですヒカリバ先輩。
「ヒカリバ会長。俺しばらくはここにいるんで、仕事手伝えますよ」
「まじ?!ありがとう!」
ヒカリバ先輩はナゴ先輩に説明している。
少しでも人が増えればその分負担が減るから、このタイミングで来たナゴ先輩は神様なんじゃないかと思える。
「今年も俺らでカメラ設置かぁ…」
「一応二手に分かれてやるつもり」
「俺どうしましょうか、ユウゴもナナミくんも前衛タイプだから2人についた方が良い気もするけど、セラちゃんとヒカリバ会長も心配」
「大丈夫だよ俺も気を付けるし」
「了解です」
ヒカリバ先輩のお荷物にならないようにしないと。
私は隅っこに1人でいると、ヒカリバ先輩がこちらにやってくる。
「ユキナちゃん」
「はい何でしょうか?」
「明日ダンジョン行くから付き合って」
「はい?」
「君の実力を確認したいから」
実力を確認したい。その言葉が私の耳に重く響く。
これで実力が無かったら外されるのだろうか。
「そんな固くならなくて良いよ。外すつもりはないから」
「え、あ」
「ごめん勝手に読んじゃった」
「いえ、大丈夫です」
サポートしかできない私の体に嫌気がさす。
何でヒロインは戦いが嫌いなんだ。
どうして戦うのが嫌いなのか。
「先輩、私先に失礼します」
やることは決まっている。
後は行動に移すだけだ。
学園の裏に来て私は魔法道具の人形に魔力を込める。
すると人形は大きくなりファイトポーズをとる。
「…スッ」
私は短く息を吐きナイフを構え地面を蹴る。
ナイフには攻撃を上げるエンチャントをする。
ナイフは赤い光の軌跡を描き人形に向かう。
人形はナイフを真剣白刃取りみたいな感じで止める。
「あ゛?」
私はナイフから手を離して少しだけ距離を取る。
足を強化して蹴りの体制に入るかナイフを取るか。
拳は無理だ、弱すぎる。
足に魔力を込めてから私は人形に向かって真っすぐ走る。
人形は私に向かってナイフを投げつけた。
ナイフが真正面からくるから私は姿勢を低くした。
ギリギリナイフが私の頭をかすめる。
(あっぶな)
これで人形も武器はない。
私は相手の懐に入って相手の足を潰す。
人形はあっけなく横たわる。
「はぁ、はぁ…」
私は肩で息をしながら、人形の頭を踏み潰した。
「1人で何やってるの?」
「ストレス発散ですかね。先輩は?」
私は振り向かないで応える。
「先輩もう暗いですし寮にお戻りになられては?」
「君も戻った方が良いよ」
「戻りますよ…いっ」
歩こうとしたら足に痛みが生じる。
ヒカリバ先輩は私の方に歩いてきた。
「途中見てたけど無理な強化したでしょ、あんまりやってると体壊れちゃうよ」
「大丈夫です。私治せますから」
先輩はため息をつく。
「舌噛まないでね」
「はい?…ひょわ!」
先輩は私を軽々と持ち上げる。
お姫様抱っこされてる。
私重いでしょう?!
「私歩けます!てか重いんで離してください!」
「座れるところまで連れて行くよー」
私の言葉は無視か。
…ニコニコ笑ってるが何となく怒ってるように見えた。
「先輩、怒ってますか?」
私は恐る恐るヒカリバ先輩に質問するとピクリと口角が動く。
「まぁ、多分?」
彼は怒りという感情が無いはずなのにこの段階で見つけるとは思わなかった。
本来ならルートに入ってからのはずなのに。
私の行動が元々のシナリオをねじ曲げているのだろうか?
「多分ですか」
「怒ったことないから分かんないや」
「そうなんですか」
話していると寮の休憩室に連れてかれる。
運良く人はいない。
先輩は私を椅子に下ろして満面の笑みを向けた。
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