こみ上げる怒りとなつかしさ

 私は1ヵ月かけて蹴り以外の攻撃方法を覚えた。

 後は授業の時先生は特に服装にとやかく言わないので実戦形式の授業は短パンで参加することにした。


「攻撃系の魔法を覚えるセンスが無いのでナイフを覚えました」


 私は少しだけどや顔でナナミくんに言った。

 忘れかけてはいるが彼は攻略対象だ。

 なるべく関わらないようにとしているが、授業はどうしてもペア行動だからあきらめている。


 私たちはクラス分けでAクラスに分けられた。

 このクラスはひたすら戦って自分で課題を見つけるという感じになっている。

 先生は監視しているだけという。


「うん。俺は最近重力操作の魔法を習得した」

「おお、私のがしょぼく感じる」

「そんなこと無いよ」


 慰めないでくれ胸が痛い。


「次は投げナイフを…」

「覚えなくていいから」

「意外にほら出来たら便利「じゃないから護身程度で良いから」


 ナナミくんは私が前線で戦うのを許してくれない。

 なるべく私を戦わせないようにしてる様子も見られる。


「あ、そういえばセラさん長期休みって何する?」


 長期休暇が近いんだったねそう言えば。

 ゴールデンウィークみたいなものだと私は思っている。


「ダンジョンにこもる予定かな?」

「へぇ、1人で?」

「あ」


 ナナミくんに叱られるのはこれで何回目だろうか。


「誰か誘うご予定は?」

「…そのぉ、誘うつもりはなかったです。はい」

「素直でよろしい」


 本当に彼は私が知っているナナミくんだろうか。

 すごい冷たいというのが死ぬ前の印象。

 今はおかんだとしか思えない。


「じゃあ誰か暇な人誘ってみる」

「例えば?」

「カナちゃんとかカゲミくんとか?」

「俺は?」


 拗ねた様子で私にナナミくんは聞いてくる。

 ナナミくん大丈夫だよ2人とも例えで出しただけで誘う気何てないから、1人で行くつもりだから。


「迷惑かなと」

「聞いてよ俺そしたら喜んで行くから」

「それもどうかと、ナナミくんは友達とかと遊ぶとか…」

「あると思う?」


 圧が、あの…ナナミさん圧が強いです。

 本当にすいません地雷何気なく踏み抜いて大変まことに申し訳ございません。


「じゃあ一緒にダンジョン潜りますか?」

「うん」


 悲報私は圧力に弱いらしい。

 仕方ない1人だとさばけるモンスターの量が限られてくるからありがたくナナミくんを連れて潜ろうと思う。


「ヒカリバ先輩から聞いたんだけどナゴ先輩が帰ってくるって」


 私にとっては最悪すぎるお知らせを何気なくしないで。


「そうなんだ」

「帰ってきたら、みんなで親睦会しようって」

「へぇー」


 できるなら参加したくないけど、人付き合いを考えると悩んでしまう。


「あら、ごめんあそばせ!」

「は?」


 突然考えていると思いっきり水が私にかかる。


 誰だと若干キレ気味になって声のする方見ると縦ロールがクスクスと笑ってこちらを見ている。


「すみませぇん」


 反省の色は見えない。


「…大丈夫です。わざとではないでしょうし」

「え、ええ」


 キレそう。その気持ちを必死で我慢して私は笑う。

 良かったな私が我慢できるタイプの人で!!


 縦ロールも飽きないな全く。

 私に不幸があったら大体は縦ロールが高笑いをしている。

 私はいつもそれをニコニコと笑顔で返すように心がけている。


「私着替えたいので失礼しますね」


 縦ロールは私が泣いたりするのをご所望だろうが泣くなんてするわけない。


「動かないでね」

「着替え取りに」

「乾かすから」


 ナナミくんは両手を掲げて暖かい風を出す。


「魔力の無駄じゃない?私着替えてきた方が…」

「俺の魔力はそんな貧弱じゃないから心配しないで」

「そうならお言葉に甘えようかな」


 私は温風を受け入れる。

 暖かくて眠気が来るが流石に寝るのはやばいから私は右手の親指と人差し指の間を反対の方の手でつまむ。


 死ぬ前はこれでいつも眠たいけだるげな午後の授業を乗り切っていた。私の最強の目の覚め方である。


「お加減はいかかですかー」

「良い感じです」


 ナナミくんは美容師さんが良くシャンプーするときに言うセリフを言うので私は美容師を目指していた友人を思い出し懐かしくなり笑う。

 今何をしているだろうか?

 美容師なれたかな?


(やばい泣きそう)


 視界が滲みそうになる。

 泣く訳にはいかないのに。


(私何で死んだんだろう)


 考えないようにしていたことが今になって溢れて止められそうにない。

 私は見えないように服の裾で拭った。


「セラさん乾いたかな?」

「うん乾いたよ。ありがとう」

「…乾いたなら良かった」


 ナナミくんのおかげで私の服は濡れていたのが嘘だったかのように乾いている。


「お礼したいけど思いつかないからナナミくん考えといて」

「気にしないで良いのに、一応考えておく」

「なんか買ってとかは値段によっては無理だからね?」

「分かってるよ。頼むつもりもないけど」


 私が大金をダンジョンに潜って準備しないといけないという事態は起きないらしい。

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