ヒロインが非力なの大変遺憾なんですけど

 何で初回から生徒を先生はこき使うんですかね?!


 生徒会に入ったと情報がもう広がっていて、困ったことに先生に「生徒会に入った子いたよね頼みたいことが」とか言われてこれだよ!


 大量の教科書を女子生徒に持たせるのはいかがなものかと抗議したいと思う。


(にしても私筋力なさすぎでは?)


 一歩踏み出しただけで、腕がプルプルするのは異常だと思う。

 もしかしてヒロインって持ってもらう前提だからか?こんなに弱いのって?


(腹立つ…)


 女の子は非力って決めつける世の中が、それをきっかけに攻略対象と距離を縮めようとするイベントがあることに。


 何とか持ててるのだから大丈夫と自分に言い聞かせて私はフラフラしながら廊下を歩く。

 廊下は良かった何とか歩けた。飲んだことないけど、酒飲んだ人みたいにフラフラしてたけど。

 階段という名のラスボスにビビりながら今歩いています。


(こっわ)


 足元が少ししか見えないのは恐怖でしかない。


「あら、惨めですわね。教師に雑用押し付けられて」


 金髪縦ロールがわざわざ隣にやってきて話しかける。

 後ろには取り巻きがいる。


「いいえ生徒会に入ったのですから、生徒の皆さんの役に立つことならいくらでもしますよ」


 思って無いです。私がこんな聖人みたいなこと言う訳ないだろ気持ち悪い!

 と言っても外ずらは良くしておくに限る、あんまり素出すと学園生活が苦痛になるし。


「ふん、そんなこと口ではいくらでも言えますわ」


 すごい当たってるよ縦ロール。

 でも正解なんて言ってあげない。


「本当に思ってませんよ。私皆さんのお役に立てる生徒会に誇りを持っているんですから」


 私は自分の言っている嘘の言葉に寒気を覚えながら言う。

 縦ロールは怒りを隠せない様子。


「一度痛い目にでも合えばいいのですわ」


 縦ロールはそう言って魔法で風を起こす。

 私は少しだけ体が浮いてバランスが崩れてそのまま床とキスする形になる。


(床がファーストキスの相手かぁ…でも正当防衛で1回だけ殴れるから重いの1発お見舞いしてやろう)


 何て馬鹿なことと物騒なことを考えながら痛みが来るのを目つぶって覚悟する。

 でも床にぶつかったときに鳴る鈍い音じゃなくて、ポスンと間抜けな音が鳴る。


「いつまで目つぶってるのセラさん?だっけ?」

「私生きてる…?」


 目を開けるとナナミカエデがいた。


「ありがとう、ございます」


 とりあえずお礼を言った。

 そしたら「どーも」って素っ気なく返された腹立つ。


「教科書!」


 今頃バラバラで集めるのが大変じゃないかと絶望しながら周りを見るがない。


「上」

「上に…浮いてますね」


 ナナミくんは本当にチートだと思う。


「返すね」


 ナナミくん言葉通りに教科書たちは私の手元に戻ってくる。

 先程より量が少なくなって帰ってきた。


「あの教科書…」

「手伝う」

「ちょ、ちょっと!私を放置しないでくださる?!」


 あ、ごめん忘れてた。

 縦ロールは無視されたことが不服なのか顔を赤くして怒っている。


 怖くないよそのレベルじゃ、お母さんの方がよっぽど怖かったよ。

 だってプリン食べただけで私のおやつ1か月分のストック没収されたもん。


「別に忘れてたわけじゃ…」

「覚えてらっしゃい!この学園にいる限り許しませんわー!」


 取り巻きに引きずられて退場する悪役がいただろうか。


「行こうか」

「は、はい」


 足元が見えるのって素敵!

 ナナミくんに感謝しないとね。


「ごめんなさい迷惑でしたよね」

「気にする必要ない同じ生徒会の仲間だから」


 素っ気ないが普通に良い奴だ。

 ごめんあの時攻略難しいとか言って中断して。


 ゲームで「なにか用?」とか「誰?…ああこの前の人」ってすごい冷たく返されたんだもん!そりゃ台パンして攻略やめるわ。

 てかナナミくん生徒会入ったんだ。


「さっきの大丈夫なの?」

「大丈夫です」


 あんな低レベルな嫌がらせにビビる私ではない。

 むしろどうやってやり返そうか考えている。


「これ次の授業で使うんでしょ?」

「は、はい」

「さっきから敬語になってるけど何?」


 こいつ…言い方に棘がある。

 私はなるべく距離を置こうと思って敬語を使うという選択をした。

 カゲミくんは流石に同じクラスだから敬語は違和感あるからやらないけど。

 生徒会はいわば仕事仲間。これくらいの距離感が良いと思う。

 ヒカリバ先輩の距離感が特別近いだけで。


「不愉快でしょうか?」

「いや、なんかよそよそしいなと、同じ生徒会の仲間だし。その、寂しいと言うか」


 あの冷たいナナミくんが照れてる。

 ちょっと耳が赤い。


「ナナミくんって最初新入生代表のあいさつの時怖い人だなって…ごめんなさい!私失礼な事を」

「いや良いよ事実だし。目つき悪いしそう思われても仕方ないよ」


 いくらルートに入りたくないって言ったって傷つけるのは違う。

 私はただこの人は自分の好きな人ではない勘違いだったって思って欲しいだけだから。


「違います!」

「やけに食い気味」

「先程私のこと助けてくれました!冷たい人はそんなことしないです!」


 それに大丈夫かって心配もしてくれた。

 私のナナミくんに対する認識を改めるべきだと思った。


「たまたま通っただけ」

「そうだとしても今教科書運ぶの手伝ってくれるじゃない!仲間って思ってくれてるじゃない!」


 素が出てしまったが、人が傷つくのはいくら外道な私でも許せない。

 シナリオブレイクはしたいけど、相手のメンタルブレイクをするつもりはない。


「必死過ぎない?」

「命の恩人だから!助けてもらわなかったら今頃床とファーストキスすることになってたよ」


 私の発言にナナミくんは噴き出した。

 どうしたんだろう?


「ゆ、床とファーストキス?…待って面白いんだけど」

「私真剣なんだけど?!」


 だって嫌じゃん無機物に初めてあげるの。

 あげるならちゃんとぬくもりのある人間にあげたい。


 ナナミくんが笑っているのは驚いたが、こんな私の言葉で笑ってくれるなら、まぁいいけど…笑いすぎではないでしょうか?

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