修正力の強さ

 体育館で椅子に座ると自分がこの学園の生徒であることを再確認した。

 夢じゃないのか…。


「新入生諸君入学おめでとう。私は…」


 学園長の長ったらしい話はどこの世界でも共通らしい。

 これを真剣に聞いているみんなを私は心の底から尊敬する。

 あくびが出そうだ。


「歓迎の言葉。生徒代表、生徒会長ヒカリバマモル」

「はい」


 良く通る声でこの学園の生徒会長…ヒカリバマモルは返事をしてステージに上がる。


 はちみつ色の髪に優しそうな双眸、女子に人気な理由が分かる。


「新入生のみなさん入学おめでとうございます。みなさんの入学を私たち在校生は楽しみにしてました」


 にこりとやわらかい笑みで生徒会長が言う。


「困ったときは先生や私たち先輩に頼っていただけるとうれしいです」


 攻略対象じゃなかったら頼っていたんだけどなぁ…。

 なるべく接点を作らないようにしたいと思うなら絶対に生徒会長とは関わりたくない…他の攻略対象も嫌だけど。


「長い話は苦手ですのでこれでこれで終わりにします」


 そうして彼はステージから降りていった。

 次は新入生代表のあいさつだ。

 4人目の攻略対象が出てくる。


「新入生代表挨拶。新入生代表ナナミカエデ」

「はい」


 低い重みのある声に私の緩んでいた顔が引き締まる。

 ナナミカエデ…この中で1番攻略が厳しい。

 特技は特にないが戦闘面のステータスがすべて高い。

 実質チートキャラだ。

 その代わりなのかパーティ加入条件が厳しい。


「在校生のみなさん歓迎ありがとうございます。私は1日を大切に過ごしこの学園で魔法を使う者としての自覚と責任を持ち生活していきたいと思います」


 まっすぐな黒曜石のように黒い瞳と黒い髪。

 ササキ先輩と違う意味で関わりづらい。

 あの人は甘味を上げれば好感度上がるから言い方は悪いがちょろいのだ。

 でもこいつは違う。


 何も渡しても好感度がミリ単位しか上がらない。

 唯一好感度を効率よく上げれる方法はナナミくんがいるところを探して話しかける。

 私は台パンをしてやめたが。


「ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。新入生代表ナナミカエデ」


 攻略できなかった悔しい思い出を思い出していたらいつの間にか終わっていた。

 入学式が終わると新入生歓迎パーティがあるそこでなにもしなければ接点はできない。

 この学園は全寮制だから体調不良を理由にバックレるのも視野に入れよう。


 パーティはこの学園で1番きれいな場所、花園で行われる。


(きれいだ)


 今の季節は春だからチューリップやツツジと色鮮やかな花たちが咲いている。


「きれいだよねここの花は」

「はい…はい?」


 隣から声がしたんだが。返事をしてしまったのだが?

 何で人と話しているんだ?私1人でここにいたよね。


「どうしたの?」

「あ、ナンデモナイデス」


 私絶対に会わないように努力してたよね?

 なんで会長がいるんだよ!!


「えっと」


 どうしようどうしよう。

 逃げる?でもそれだと印象に残ってしまう。


「君はどうしてここにいるのかな?」

「…その、疲れてしまって、休憩したいなぁと思いまして」

「そうなんだ。俺も一緒に休憩して良い?」

「は、はい」


 本来のイベントはササキ先輩にヒロインが話しかけてそこで会長に会うのだが、そのイベントを無視したのだから回避できたと思っていたが、認識が甘かった。

 私はヒロインだ。そしてここはゲームの世界。

 ヒロインは誰かと結ばれるのは絶対不変の決まり事。

 結ばれないのはバッドエンドそれがこの世界の価値観。


 最悪すぎる。

 この世界はどうしても私に恋愛をしてほしいらしい。

 恋愛はしたいときにするのが良いんだよ。

 期限が決まっていてそれまでに付き合わないと幸せになれないみたいな乙女ゲームの暗黙の了解みたいなものに疑問を待つ。


 私は生前彼氏がいない人だったんですけど?!

 いなくても幸せですけど?


 なんてキレ気味で心の中で呟いていると少しだけ心が楽になった。


(まずはこの人を何とかしないと)


 最優先はこの強制的に起きたイベントの処理だ。

 きっと本来とは別のシナリオになっているはずだ。

 上手い事イベントを回避してヒカリバルートに入らないようにしないと。


 ヒカリバはとにかく癖のない天然。

 後ろに黒い影が見えない明るいザ光の住人みたいな人。

 だがそれは間違いで、彼には喜怒哀楽の怒と哀に対しての感情が無いに等しい。


 そんな彼のために奔走するヒロイン。

 ある日ヒロインはダンジョンへ潜っている最中、会長をかばって負傷してしまう。

 ヒロインの体には一生消えない傷ができてしまう。


「先輩を守れたなら良かったです」


 そう微笑んで言うヒロインに会長は感情をあらわにする。

 大切な人を失うかもしれないという恐怖が彼の感情を引き出したのだ。

 あのシーンは見ていて良かったのひと言に尽きる。


(絶対に痛いのは嫌だ)


 だから絶対にヒカリバルートに入る訳にはいかない。

 確固たる意志で私は回避する。

 










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