逃がしてよ?!

「君の名前教えてもらっても良いかな?」

「セラ、ユキナです」

「ユキナちゃんねよろしく俺は…」

「入学式で聞いたので大丈夫です。ヒカリバ会長」

「先輩って呼んでくれると嬉しいな」


 笑顔で圧をかけるのは良くないと思います会長?!


「ヒ、ヒカリバ先輩?」

「ん?どうしたの?」


 幻覚かもしれないが、犬の耳と尻尾が見える気がする。

 大型犬だぁ…。

 すごいそっけなく接するのが難しい良心が痛む。


「先輩は、会場に戻らなくても良いんですか?」

「ここに1人でいる後輩を置いて行くのはなぁ…」


 遠まわしに戻れを最大限傷つけないように言った結果がこれである。

 畜生が!!


 ヒロインとしてあるまじき発言だが、中身はただの女子高校生だったので勘弁してほしい。


「ユキナちゃんお腹空かない?」

「お腹は空いていますけど…会場に戻って何か

 取ってきましょうか?」


 パシリは任せて!お母さんにお使いやらなにやらで、鍛えられているから楽勝。

 私が立ち上がるとヒカリバ会長改め先輩は慌てる。


「どうしたんですか?あ、好きな食べ物あります?」

「俺はオムレツが好きだよ…って違う!」

「何が違うんですか?」

「取りに行くなら俺も行くよ」


 あ、これパシリじゃないんだ。


「パシられたのかなと思いました」

「違うからね?!俺そんな人じゃないからね?!」


 違うんだぁ。

 結局2人で会場に戻ることになった。


「げっ」


 ヒカリバ先輩は顔をひきつらせた。

 何事だと彼の視線の先を見ると、怒りで目つきの悪い顔をさらに険しくしてササキ先輩は足早にこちらにやってくる。


「な・に・をしているんですか会長!」

「あははー、ユウガ元気?」

「元気な訳無いでしょう?!…それになぜ彼女がいるんですか?」

「裏の花壇で一緒に休憩してたんだよ」


 ササキ先輩がすごいこっち睨んでくるんですけど。

 怖いんですけど。

 そして何か思いついたのか、ニヤリと笑った。


「…会長提案があるのですが」

「何?」

「あ、あの私はこれで…ふぎゅ!」


 逃げようとした私の肩をササキ先輩が掴む。


「逃げるな」

「私に関係ない話だと思いますので!」

「大丈夫だ関係はある」


 無いよ!何1つも無いよ?!


「提案というのは今年の新入生は優秀な人材が多いです。クラブ勧誘よりも早く勧誘できるのは今日しかありません」

「そうだね。生徒会は毎年人手不足だ来年は俺が卒業するからユウゴとタイガの2人だけになっちゃうね」

「はい。タイガは学園の外部での仕事を任せる機会が多いので、実際学園の運営が1人になってしまうので」


 私はタイガという名前を聞いてピクリと反応する。


 最後の攻略対象であるナゴタイガは、生徒会では外部の学園の活動をしているため不在なことが多い。

 社交的で顔が広い。

 ヒロインとは生徒会に入らない限りは会う事の無い人である。


 誰とでもすぐに打ち解けられるが、それ以上の関係にならないように1歩だけ距離を置いて接する。

 同じ生徒会のメンバーにも距離を置いている様子。


 ヒロインはタイガとの距離を感じ仲良くなるためにあれやこれやと行動する。

 活動に同行して手伝ったりお茶をしたりと、タイガとの時間を過ごす。


 タイガはそんな彼女に戸惑いを覚える。

 人はすぐに裏切ると幼いころから親に言われ育ってきた彼にとっては、そこまでして一緒の時間を過ごす彼女の行動が分からなかった。


 何か裏があるのではないかと、ヒロインを尾行して観察することにした。

 だが何も出てこない、いつもの明るい彼女のまま。

 タイガがいつも見ているヒロインのまま。


 ついにタイガはヒロインに直接聞くことに。

 どうして君は俺と関わろうとするのか、と。

 ヒロインはその質問に目をぱちくりさせながら、さも当たり前かのように応えた。


「仲良くなりたいんです。仲間なのに寂しいじゃないですか、距離置かれていると」


 先輩は驚いていた。

 嘘はついていない。

 純粋な気持ちで彼女が言っているのは、目を見れば分かる。

 そうしてタイガは少しずつヒロインと距離を縮めるのだ。


 そこからは先輩と一緒に仕事以外で街に行ったり、会話をしたりとほっこりするイベントが多い。

 タイガ先輩のステータスは平均的だが、特別なアビリティとして回復アイテムや装備の買い物の際値段が安くなる。

 買い物の際はお世話になりました。


「聞いているのか」

「…は!すみませんぼーっとしてました」


 忘れてた、今捕まっているんでしたね忘れていたよ。


「会長からは許可は下りているお前の返事次第だが」

「何を言って…」

「ユキナちゃん生徒会に入らない?」


 ヒカリバ先輩が王子様のような優しい笑みで私に向かって言った。







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