第5章 願いよ届け、転生に賭けた望み
第15話 フィギュアを愛する男に連れられて
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「それで、その彼のことをどう思ってるの?」
「えっと、
「頑張ってね。その恋が実るのを、ボクも応援しているから。男なんてチョロいもんよ」
セミの鳴き声に乗じて、昔懐かしの高校生の情景に、馴染みのある会話が耳を通じてくる。
この声からして、刹那と
僕が刹那と出会う以前から、二人は仲が良かったもんな。
「あのさあ、
鵺朱が寝転がった僕の正面に立ち、何やら言葉にトゲを絡ませてくる。
黙っていれば、奥ゆかしい美少女に見えるのにな。
「僕がどこで寝ようと、鵺朱には関係ないだろ?」
「関係あるよ。だってボクは……」
「まあ、お陰さまで、いい水玉パンツを見させてもらったけどね」
僕の素直な反応に、鵺朱の顔が、みるみる赤面する。
「なっ、スケベ! この無自覚男が!!」
『ペチーン!!』
「ぐほっ!?」
鵺朱が制服の紺のプリーツスカートを手で押さえ、持っていた英語の教科書で、僕の顔面を叩く。
なにわハリセンのような、歯切れのよい音がした。
「痛いな。このイケメンに対して、その攻撃は罪だろ?」
「どこがよ。似合わない台詞、吐いちゃってさ。鏡で、自分の顔を見てから言ってよ!!」
「クスクス」
鵺朱の後ろで刹那が、口元に手を添え、お上品に笑っている。
「ああ、お見苦しい所を見せてごめんね。ちょっとやり過ぎちゃったかな」
「いえいえ、
「だよね。人様の下着を見ちゃった最低男だもんね」
「うぐぐ……」
そこまで追及されると、身も蓋もない。
二人の女子から必要以上に責められ、僕の頭の中では『混乱』の二文字が弾けていた。
「三人ともお邪魔さーん♪」
そんな僕のパニックに無神経に現れる、
「お前は、宇宙一の暇人なのか?」
「可愛い女の子二人を待たせているのに暇人とか言う、宇宙人設定はないだろ?」
「いや、待ってもないから」
僕の鋭いツッコミと、心の声を柔らかく受け止める片城。
見かけの薄情さと違い、中々の発言力を持つ。
まあ、分かりやすく言い換えたら、ただのナンパ野郎なんだけどね。
「それで、彼女らに何の用だよ?」
「そう。それなんだよ、兄者。ひそひそ……」
片城が僕の首に腕をかけ、耳元に語りかけてくる。
『……何だよ、気持ち悪いやつだな』
『……まあ、そう言うなよ。悪くない話だと思うからさ』
彼の片手には雑誌が握られていて、表紙を飾るのは、グラマーな黄色い水着を着た、腰まで長い金髪の緑の瞳の少女。
その写真の美少女アニメのフィギュアが、豊かな胸元を寄せて、エロチックなポージングを決めていた。
この二次元大しゅき、ロリコン男子め。
あれ、でもこの展開はどこかで……。
「まさかこれから、あのフィギュア専門店に行く気か?」
「ごもっとも。よく分かったな」
「片城の考えは、お見通しなんだよ」
「おおう? ということは、オレたちは相思相愛?」
ささっ。
片城の危ないワードで、半径三メートル先に遠ざかる僕。
「きっしょ」
「ひでー、それはないっしょ!?」
僕が拒絶の反応をすると、片城は切なさを溜め込んだ瞳で、僕の足に泣きついた。
「本当に仲良いですね。お二人さん」
しまったぁぁー。
刹那がいるのも忘れて、つい、いつものように、はしゃいでしまった……。
「この二人は、いつもこうよ。よく言う腐れ縁とか言うやつ」
「へえー、そうなんですね。では、刹那たちは、お邪魔みたいですね」
「とか言いながらも、実は自分も絡みたいんじゃない?」
「もう、鵺朱ちゃんは意地悪ですね」
何やら恥ずかしげな刹那が、鵺朱の背中に猫パンチの連打で答える。
「それでお話し中のところ、すまんっすけど……」
「……みんなで、夢と希望を追いかけてみませんか」
「えっ?」
片城が持っていた雑誌を、刹那の手元にポンと渡す。
刹那はその表紙の内容が掴めず、氷像のように固まっていた。
『なっ、何言ってるんだよ。気でも狂ったか、片城!? マニアックなフィギュア店に女子を誘うなんて!?』
僕は片城の腕を掴み、女子組に悟られないように、廊下の隅へと移動する。
『何だよ、優希。これはチャンスだぜ』
『はあ?』
『好きな女の子には、己の性癖も知ってもらわないとな』
『フィギュアオタクは、お前の趣味だろ!?』
もう、コイツには何を意見しても無駄だ。
片城から逃げの体勢を取り、教室へと引き返す僕。
「おい、逃げるのか?」
「ああ、あの二人に勘違いされて、至らぬ被害を受けたくないからな」
「そっか。来ないと、きっと後悔するぜ?」
片城が舌を舐めずりながら、女子二人を取り囲もうとする。
「二人がどんな姿になっても、後悔するなよ?」
僕は想像と妄想との境目に差しかかり、思わず息を飲む。
「まさか、彼女らを巻き添えにして、お人形さんごっこを企む気か?」
「へへっ、いい反応だな、優希軍曹。お察しが早い」
片城が両手を擦り合わせて、エロくて、細長い目つきに早変わりする。
「冗談じゃない。やっぱり、僕も行かせてもらう」
「へへへ。そうこなくちゃな、優希軍曹」
交渉成立。
軍曹のクセに下っぱの片城の口車に、まんまと乗せられた僕。
しかし、この後、フィギュアショップの店内にて、とんでもない真実が待ち構えていたのだった……。
****
平屋の瓦屋根にくくりつけられた、『フィギュア満開堂』と、書かれた看板。
今にも突風が吹いたら、勢いで飛んでいきそうに錆び付いた看板で、そのせいか、周りの建物からも浮いて見える。
その見るからに怪しい名前に招かれるように、入店した僕ら。
ここには片城と何度も来ているフィギュア専門店なのだが、毎度ながら気付いたことがある。
どこから調達しているのか不明だが、毎回、人形のラインナップが違うのだ。
ちょうど汚れた空気を、新鮮な空気に入れ換えるみたいな感覚。
その時の旬によって、変えるのは分からないでもないが、店内の人気の無さといい、そうまでして売れている理由が見えてこない。
「こんなに、しょっちゅうマニアックな人形を変えていたら、赤字経営にならないのだろうか?」
「ちっちっち。甘いな、優希二等兵。少しでも古い商品はネットで売りさばき、常に最新の商品を展示しておかないと、この人形界でも生き延びていけないのさ」
「何で軍曹から、二等兵に僕の階級が下がっているんだよ」
「人形界では、愛らしいフィギュアに毒のあるツッコミをいれると、イレギュラー扱いになるのさ」
「僕は当たり前のことを、指摘したまでだけど?」
「いやいや。言っていいことと、悪いことの区別くらいできるだろ?」
この暴走機関者は、何をほざいているんだ。
僕は額を押さえながら、片城から一足退く。
しばらく人形から遠ざかり、一人になりたい気分だった。
****
「あら、いらっしゃいませ。お客さんですか?」
休憩がてら、店の外に配置している自販機で、僕が飲み物を買おうとした時、青のツナギを着た一人の女性が、こちらに足を向ける。
年齢からして、20代くらいだろうか。
片手には白いフルフェイスメットを手にしており、もう片方の肩には、数十枚の書類が入った白い手提げバックを抱えていた。
ぱっと見た目は、新聞配達員に見えなくもないけど……。
「何ですか。僕は新聞の契約はしませんよ」
きっぱりと、勧誘をお断りする僕。
こういう時は、相手につられてはいけない。
向こうは新聞を売ることを、糧とするセールスマンだ。
売り上げと利益のためなら、何だってしてくる輩なのだから。
「あはは、何を言っているのですか。
この書類は、お客様の家に、フィギュアを配達をした証拠となる領収書です。私は、このお店のアルバイトをしている者ですよ」
大きな胸を突き出し、ツナギの胸元の会社名『フィギュア満開堂』のロゴを見せる女性。
ショートカットの赤髪が風に揺られ、ほのかな甘いバニラの香りがする。
僕はその目尻を緩ました表情に、自然と懐かしみを感じた。
「もしかして、
「えっ、どうして私のお名前を?」
「あっ、いや、その胸に付けているネームプレートに『やな』って名前が書かれているからさ!?」
僕は焦って弁解をするが、苦しい言い訳に過ぎないか。
もし、その名札が付いてなかったら、即刻、怪しい人物確定だった。
「そうですか。所で、お一人様ですか?」
「いや、友人たちと来ていてさ」
「その制服のワッペンは
「妹、そう言えば……」
「アロハー、矢奈お姉ちゃん♪」
あれこれと考える暇もなく、僕の脇から飛び出してくる、元気娘なオーラ全快な鵺朱。
姉の矢奈さんと髪色と髪型も同じだが、この時代の矢奈さんが赤髪ということは、大人の僕と出会った彼女は、茶髪に染めていたのか?
わざわざ矢奈さんは、何でそんな手の込んだことを……。
「もう、鵺朱。ここには来たら、駄目って言ったでしょう?」
「いやぁー、どうしても矢奈お姉ちゃんの仕事ぶりが見たくて」
「だからって、来ていい理由にはならないでしょ? お姉ちゃんは鵺朱に、マニアックなヲタク趣味が染み付いてしまったら困るのよ」
「じゃあ、何で矢奈お姉ちゃんは、ここでバイトしてるの?」
「近場で時給がいいからに決まって……って、何を言わすのよっ!」
矢奈さんが鵺朱の対して怒っているようだが、僕から見たら、じゃれあいにしか映らない。
だって二人とも、心の底から喜びを浮かべていたから。
「じゃあ、矢奈店員さん。本日のおすすめとかあるかい?」
「片城、その発言じゃ、居酒屋だって」
「ほお、優希鉄砲玉は未成年なのに、酒場に行ったことがあると?」
「鉄砲玉って、何でヤクザのチンピラ階級になってるんだよ?」
僕は言葉を濁しながら、何とか、この場を切り抜ける。
正直、居酒屋は週1で通っていた記憶がある。
ただし、それは成人になった後の記憶だけど……。
今の僕は、過去に転生している高校生だ。
この世界のみんなには、
「仕方ないですね。お店の中を案内しますね。皆さん、ついてきて下さい」
矢奈さんが吹っ切れた顔で、僕たちを店内に向かい入れる。
「お姉さんのためなら、例え火の中、水の中~♪」
一方で片城も、エロの化身へとなりかけていたが……。
****
狭苦しい部屋に、ところ狭しとガラス棚の五段ラックに陳列された、色とりどりのフィギュア達。
「こちらは主に、美少女アニメのフィギュアがメインとなっております」
「オレは矢奈さん自体を、そのまま縮ませたフィギュアだったら、即決なんだがな」
矢奈さんの丁寧な案内に、片城がヤホーオークションのような語り口になる。
あのさあ、人身売買は立派な犯罪だぞ。
「しかし、いつも思うんだけど、フィギュアって結構値が張るよな」
「そりゃ、魂を込めて製作してるからな。血と汗の結晶というもんさ」
「人形に魂ねえ……」
僕は緑の髪に青いドレスを着た、美少女フィギュアに張られた値札をチラ見して、絶句する。
10パーセント割り引きで、二万超えだと……。
ここのお客の金銭感覚は狂っている……。
片城は、いつもこんな高価な買い物をしているのか?
夏目ソーセキの小説ならぬ、セレブ坊っちゃんめ……。
『おい。そこのお客さん……』
「んっ、僕を呼ぶのは誰だ?」
そんな想いを抱え、フィギュアの前で
もしや、別の店員だろうか?
『こっち、こっち』
「あっ、お前は!?」
何事かと振り向いた先には、あのフランス人形のダディーが、茶色の木製の陳列棚の上から、僕を手招きしていたのだった……。
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