第13話 東宮妃は混乱する 後編
夜具を着替えて髪を結わえ、顔に薄化粧を施せば、私の支度は完成する。
と言っても、ほぼ全て侍女がやってくれたのだが。
そんな感じで支度を終え、朝餉を摂るために食堂に向かった私は――予期せぬ来訪者と遭遇した。
予期せぬ来訪者とは、無論東宮のことである。
あまりに突然のことだったことに加え、何故朝に来るんだという疑問が、最初に感じた感情だった。
それでも、取り繕うことに慣れ切った私の口からは、落ち着いた口調で挨拶が紡がれる。
「おはようございます、東宮。昨晩は宮廷へ戻られたご様子ですが、もしや睡眠を取っていないのでしょうか。無理をして倒れられると、責任を取らされるのは何の関係もない者たちなのですよ?貴方だけのものではないのですから、もっとお体を大切になさってください」
東宮の瞼の下には薄っすらと隈ができており、昨夜はあまり寝ることができていないのは明白。
それを心配して、ちゃんと睡眠時間を取ってほしいという思いからそう言葉にした筈なのだけれど……うん、完璧に不敬だな。
寝起きで、まだ完全に覚醒しきっていないのだろう。
普段、遠回しにしか伝えないようにしている棘が、半分剝き出しの状態で言語化されてしまう程度には。
それを瞬時に悟った私は、発言した一拍後、
「……失言でした。誠に申し訳ございません」
と、謝罪を口にする。
東宮はこれくらいで腹を立てるような人間ではないことは知っているけれど、流石に言い過ぎた。
それに対して東宮は、
「別に気にしていない」
と、それだけを返した。
その言葉に少しばかり安堵しつつ、さりげなく食堂の方へ踵を返す。
その行動を理解した東宮は、すっと私の前に出て、目的地まで進んだ。
向かい合って席に着いたところで、侍女が手際よく料理の乗った皿を卓へ並べていく。
今朝の献立は、半熟卵を乗せられ、昆布から取った出汁をたっぷりとかけた粥に、豆苗が付け合わせに添えられた焼き豚。
当然のように二人分あるあたり、昨晩の段階で私の
東宮と尚食の女官長、
そんなことを考えつつ、毒味の済んだ料理を口に運ぶ。
匙の先でちょんちょんっと卵をつつけば、トロリとした黄身が米粒の上に垂れた。
粥を一匙すくって口に含めば、昆布の優しい香りと卵黄の濃厚な旨みが絡まり、鼻を抜ける。
甘辛いタレと、嚙むたびにじゅわりと肉汁の溢れる焼き豚の相性も最高。時折、箸休めにぱりぱりと豆苗をつまむ。
また、野菜の甘みの溶け出た羹はとても優しい、どこかホッとする味だった。
下品にならない程度の速さで食事をしながらも、東宮の方に意識をやることを忘れたわけではない。
目の前の料理を半分ほど平らげた私は、一旦食事する手を止めて、東宮を真っ直ぐに見据えた。
そして、告げる。
「昨晩の段階では、どういった結論に達したのですか?」
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