第7話 どうしてこうなった 其壱

 ――失敗、した。

 

 東宮の頭に手を乗せ、一往復させた時点で、私は我に返った。

 そして、硬直した。

 

 そもそも私は、異性であろうと同性であろうと、人を上手く慰めることのできない人間なのだ。

 だから、相手がそんな状況だった場合は常に、全力で気づかないふりをすることに徹している。

 

 それが何故、今回に限って慰めようなどという結論に達した!?

 しかも、どう考えても効果とか見込めない方法で!

 

 当然のことながら、東宮は「無」な表情で私を見下ろしている。

 

 ……どう、すれば。

 

 先ほどまで、重大かつ深刻な話をしていながら、冷静沈着を貫いていた私はどこへ消えたのやら。現在の私は一人、ひどく動揺していた。

 極め付きに、珍しく、そんな動揺が顔にも出てしまっていたようで。

 

 「落ち着け」

 

 やや呆れた表情をした東宮に、そんな言葉を言わせてしまった。

 彼からは落ち着けと言われたのに、あの東宮からそんな言葉をかけられたという事実が、私をより混乱させる。

 

 そういった動揺の極みにいながらも、長年にわたる訓練の賜物か、半分ほどは落ち着きを取り戻すことに成功した私は、とりあえず――未だに東宮の頭の上にあった自分の手を、速やかに自身の膝の上に移動させることにした。

 

 そっと、彼の頭から手を話そうとした、その矢先。

 その手が、掴まれた。

 

 剣だこのできた、少しばかり節くれだっている、私のものよりもずっと大きくてあたたかな手。

 その手が、彼の頭部付近で私の手を強く握っている。

 

 その手の持ち主は……無論、東宮その人である。

 

 この方の顔が、流れるような動作で私の手元に近づいてくる様子が、やたらゆっくりと私の目に映った。

 

 チュッ。

 

 どこかから、そんな音が聞こえる。

 

 どこから聞こえた?

 私の……手のあたりから!?

 

 視線を、そちらに向ければ。

 東宮が、私の手の甲へ唇を寄せる構図が、見えた気がした。

 

 ――否、見えている。

 

 見間違いでもなんでもない。

 あの東宮が、私の手の甲に……口づけて、いた。

 

 ……結論から言おう。めちゃめちゃ驚いた。

 もはや驚愕を通り越していたのではないかという程度には驚いた。

 

 人間……否、全ての生き物の行動は、何かしらの意味を持っている。

 意味のない行動など、するだけ無駄だからだ。

 

 だが、今回の彼の行動は、行動の意味が不明かつ不可解かつ理解不能である。

 

 その意図がわからない行動は、解析のしようがない。

 

 さらに言えば――この国で、男性が女性の手の甲に口づけるという行為は、尊敬や忠誠、敬愛といったことを意味するものだ。

 ただしこの場合、東宮の方が立場が上なのだから、それらの感情は私が彼へと抱くべきものであり、決して彼が私に持つようなものではない。

 

 当然だ。

 

 そうなると、知識量が並ではない私としては、嫌でも勘ぐってしまうわけで。

 そして思い出したことが――

 

 

 

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