第6話 問題提起 其伍

 「お前は……藠鉦と惺躘が結託して、我が国に反旗を翻すことになる、と?そう、言いたいのか?」

 

 「あくまで、私の悲観的憶測にございます」

 

 淡々と会話が進むが、話している内容は、とても重い。

 

 「また、珖徳妃が私を茶会に招いた件――恐らくこれも侍女頭が私を呼ぶように指示したのでしょうね。それは私の実家――明家の身分が、宮廷内でもかなり高いものだったからだと存じます」

 

 「その理由は?」

 

 「徳妃さまの評判を意図的に落とし、この国が彼女を殺したという主張の信憑性を高めるためではないかと」

 

 「では何故、四夫人ではなくお前を選んだ?」

 

 「四夫人の方々。特に緑貴妃と栖淑妃は、後宮内の身分こそ高い方々ですが、実家の御身分は、泉賢妃や私には劣ります。徳妃さまの評判を効率的に落とすには、やはり後宮内だけでなく、宮廷内でもできるだけ高い身分の者を噂の発信源にする必要がありますから。一方の泉賢妃は、非常に好戦的かつ物言いが少々キツい点がございます。それに、中立派を含めた自身以外の派閥を毛嫌いしていらっしゃるようなので、招待したところで、泉賢妃が出向かれる可能性は低いです」

 

 ふっと息を吐き、東宮の方をチラッと覗く。

 彼は少しばかり強張った無表情で、一つ頷いた。

 それを合図に、最後の言葉を振り絞る。

 

 「となると、後宮入りしたばかりではありますが、実家の身分・後宮内の身分共に申し分ない私が選ばれたのでしょう。だから、わざと部屋の掃除を雑にして私が悪印象を抱くようにし、徳妃さまの髪を結わないことで、悪目立ちさせた。針に関しては、徳妃さまが急に声を上げることで、私の彼女に対する不信感を煽ろうとしたのでしょう。針そのものが見えてしまうことは、完全に誤算だったのではないかと」

 

 以上で、全てです。

 そう、付け加えた私は、すっかり冷たくなったお茶を飲み干した。

 

 東宮も同じようにして、茶杯を空にする。

 

 そして彼は、コトリという音を立てて茶杯を卓上に置くと、私の目を見て、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

 「貴重な意見、感謝する。確か、このことについて、明尚書にも詳細な情報を送っているのだったな?」

 

 「はい、その通りです。ですから、陛下にも既に伝わっているかと。繰り返しますが、これは最悪の場合こうかもしれない、というものです。確実な証拠はございませんので、その点はご理解頂けたらと存じます」

 

 同じように、東宮と視線を合わせて、答える。

 私の言葉に、分かった、と付け加えた彼は、小さく溜息をついた。

 

 「やっと国が落ち着いたと思えばこれとは……ついていないな」

 

 眉間に皺を寄せて苦しそうにそう吐き出した東宮は、いつもよりも大分疲れた面持ちで。

 いや、その原因は私の話した内容にあるのだけど。

 

 それが、何となく不憫だったので……柄にもなく、元気づけたい、と思った。

 いや、そもそも男性って、何をしたら元気づくのだろう?

 

 無表情で、少しの間悩んだ私は――手を伸ばして、東宮の頭を撫でた。

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