第4話 問題提起 其参

 「馬鹿なっっ!?」

 

 ガタンっと音を立てて、東宮は長椅子から立ち上がる。

 続いて、ガツンっという音がしたが…多分、卓に膝をぶつけたのだと思う。

 まあ、東宮の動揺も当然ではある。

 針は、刺さりどころが悪ければ体内へ入り、下手をすれば死んでしまう可能性もあるのだから。

 しかし、ここで話を止めるわけにはいかない。

東宮の膝はかなり痛そうだが、私はそれに気付かないふりをして、淡々と言葉を紡ぐ。

 

 「事実にございます」

 

 ここで私が噓を言ったとしても、益は何もない。

 故に、客観的に見ても、私の言葉が真実である可能性が極めて高いのだ。

 東宮は、それが分からないほど愚かではないだろう。

 そんな思いを込めて、私は彼と目を合わせる。

 

 案の定、東宮は同じ結論にたどり着いたのか、一つ頷き、長椅子に座りなおした。     

 そして、気分を落ち着けるためか、茶に手を伸ばす。

 私もいつまで冷静でいられるかがわからないため、東宮と同じように、ぬるい茶を口に含む。

 

 そして、もう一度口を開いた。

 

 「そして…ここからが、本題です。先ほど申し上げた通り、徳妃さまの衣服には針が仕込まれていました。私がそのことに気付いた理由は、茶会の最中、徳妃さまが腕の角度を変えると同時に、彼女の肌へ刺さったからです。その際に、一瞬光りましたので。…ですが、針が刺さったとき、彼女はそれを隠そうとしたのです。」

 

 おかしなことですよね?

 そう付け足した私は、東宮の目に、どう映っているのかしら?

 

 その答えは、知らない。知らなくても、私の言葉を伝えることに影響は出ない。

 

 「そして案の定、一見普通の表情だった侍女頭の表情も、少し歪んでいました。――まあ、これは私の感覚によるものかもしれませんので、あまり確かな証拠にはなりませんが。それでも、徳妃さまは助けを求めることもせず、ただ一人、適当な理由をつけて取り繕いました。その様子が、まるで下手人を知っているような気がいたしまして」

 

 本当に、確かな証拠など何もない話。

 それでも、東宮は口を挟むことなく頷いてくれる。

 正直、とても話しやすくてありがたい。

 

 そして私は、私の憶測でしかない話を、始める。

 

 「話が少し飛びますが――徳妃さまは、自国のでは神の使いと崇められる容姿の持ち主であらせられます。しかし、お母上の身分は低い。そのため、正妃をはじめとした他の妃方からすれば、目障りな存在だということは、以前お話しいただけましたね?それを踏まえた上での、最悪な憶測になりますが…」

 

 この先は流石に、話すことが躊躇われた。

 

 当たっていても、外れていても。

 どうしても、怖い。


 黙り込んでしまった私を見かねてか、東宮はずっと閉じていた口を開いた。


 「いいから、言え。何を言ったとしても、罪に問うことはない」


 その言葉に背中を押されて。

 私は震える声で、言葉にする。

 

 「徳妃、珖静羅さまは…お命を狙われているやも、しれません」

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