第31話 違和感 前編
徳妃さまが長椅子に腰掛けた後直ぐ、再び客間の扉が開き、一人の侍女によって、茶と茶菓子が運ばれてきた。
茶は白茶、茶菓子は杏仁豆腐だった。
白茶は、柑橘系の爽やかな香りと、花のような軽やかな香りの二つが調和した独特の香りの茶で、少し甘い。どちらというと渋みがある方が私の口に合うので、普段は緑茶を好んで飲んでいるが、これは美味しい。
また、杏の種の中にある
黄色、黄緑、緑とそれぞれの色を主張する果実たちは、硝子の器に盛り付けられていることも相まって、まるで宝石のようにキラキラと輝いていた。
実を言うと、菴羅や甜瓜、獼猴桃のような果物は、異国からごく少量しか輸入していない、希少なものだったりする。
そして、それらを輸入する中継ぎ地点は言わずもがな、藠鉦だ。
そのため、徳妃さまがこの菓子を用意するのは、他の妃濱たちよりも比較的簡単だったのだと結論付けた。
そんな杏仁豆腐は、涼しげな見た目やほのかに香る
そんな風に、無表情で茶と茶菓子を楽しみながらも、徳妃さまをつぶさに観察することは続けている。
よく見ていると、彼女の顔の白さは手と比べると少し不自然だ。
きっと
しかし、集めた情報では、徳妃さまの肌の色は白粉が要らないほど真っ白だということだった。
そう考えると、わざわざ白粉を塗る必要がないため、いささか不可解だと言える。
それらから、考えられる理由は。
――徳妃さまの体調は、まだ万全ではない。
体調があまり良くないときに茶会を開いたり、出席したりすること自体は、大して珍しいことでもなんでもない。茶会というのは、貴族又は皇族、王族の女性にとってかなり重要な行事であり、日常だからだ。また、弱みを見せないようにという理由もある。
そのため、そんな女性たちは多少体調が悪くとも、寝台から起き上がれないということがない限りは、茶会に参加する。
だが、徳妃さまは最近まで、精神が不安定だということで自身の宮殿に引きこもっていた。
そのため、わざわざ無理をして茶会を開く理由がない。一旦引きこもってしまったのならば、回復するまで引きこもっていても同じことだからだ。
それに、彼女は四夫人――すなわち、上級妃濱だ。
私のような新参者だけでなく、立場のある妃濱や、同じ四夫人からも茶会の招待は受けている筈。
もし、無理をしてでも茶会を開こうとしたにしても、何故私を呼んだのか。
そんな違和感を感じながらも、それを表情に出すことなく、私は茶を啜った。
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