第22話 苛立ち

 苛々、モヤモヤ。

私の現在の感情は、そういったものが八割だ。大体何なのだ、あの妃は。こちらの行動、言動、全てを否定してきて。

あれが、わざと否定しているのではなく、本心から否定しているのだから質が悪い。気が合わないにも程があるだろう。

明家と泉家。

百年以上、対立を続けているこの両家は、正しく犬猿の仲。そして互いに、幼い頃から相手への悪感情を植え付けられて育ってきた。

それでも一応、私は私なりに歩み寄ってみたのだ。

その結果が、これだ。

なるべく穏便に、友好的に接しようとした私の努力と時間を返していただきたい。

こうなることは分かっていたものの、腹の立つものは立つ。


ついでに言うと、私は宮殿に帰ってきたのは、本日二回目である。ゆえに、苛立ちも先程の比ではない。

どういうことかお分かりだろうか。


――結論から言おう。私は、徳妃さまに会えなかった。

うん、これも腹立つ。徳妃さまのせいではないにしろ腹が立つ。


断られた理由としては、精神状態が不安定だから、ということだった。

確かに徳妃さまは、精神的に不安定な状況にいる。

綜竜から南方の方角に位置する中立派の属国、藠鉦きょうしょうの三番目の姫にして、白髪に赤目という極めて珍しい色彩を持った少女。

その特徴を持った子は、藠鉦では神の遣いと伝えられ、崇める対象となっている。

それ故、数代前に綜竜の属国となった藠鉦が、忠義の証として彼女を差し出したという経緯は、綜竜と藠鉦の貴族であれば、誰もが知るところ。

確かに、政治的な意味では双方に利のあるものだった。

それは、理解している。否、いる。

ついでに言えば、彼女は藠鉦王の側妃の子であったらしい。そのくせをして人々から敬われる色を持って生まれたことで、正妃やその他の妃たちから、母子共に大分やっかみを受けていたらしい。そのため、向こうの妃方もこの縁談には乗り気だったという情報も仕入れた。

そう、彼女がこの後宮でもいじめられているということは、大した問題ではない。――当事者でない者たちからすれば。

彼女の色彩を崇める習慣のないこの国では、彼女の色は異端であり、畏怖や恐怖。そして、排除の的となった。

さらに、入内当初から四夫人の一人という高い位を賜っていたということも、それを増長させている。

元々繊細で、小心者だという徳妃さまは、それに耐えられずに、自身の宮殿に引きこもっているそうだ。

最近は陛下のお通りも拒んでいるとも聞く。


――醜い、と思う。

こういった争いや虐めは嫌いだ。

だが、そこに人間らしさがあるのも事実。


だから。


だから、陰ながらでも。

派閥が、違っても。

入内したての、なんの力も、信用も持たない身でも。


彼女の、味方になれればいいと。そう、思っていたのに。


歯痒い。悔しい。

怒りだけでなく、そういった気持ちも大きい。


それでも、諦めるなんて、性に合わないから。

私は、また折を見て、彼女たちに近づいて見せる。


文机の前に腰掛けて、ぬるい緑茶を啜りながら。

私は、思考をまとめた。

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