第20話 舌戦 前編
私は、激怒していた。
しかし、それに反比例して、頭はどんどん冴えていく。
そんな、爆発寸前の状態でありながらも、あたかも余裕があるように佇む私には、流石の賢妃さま――いや、賢妃も、少々ひるんだようだった。
そして私は。
滅多に上げることのない口角を吊り上げ、微笑んだ。
そして、舌戦は幕を上げる。
「お言葉ですが、貴女は伝統というものに囚われて、新しいものを取り入れるということを忘れてしまっているようですね?もしくは、器が小さくていらっしゃるのでしょうか?人は、自分たちの伝統や考えの良い所は残し、悪い所は切り捨てる。他所から良いものが入ってくれば、それを取り入れる。それを理解できる者が、生き残ってきたのではありませんか。自分たちの持つ考え方や文化にこだわり続けることは、愚かとしか言いようがございませんね。」
「は?そちらこそ、何を言っていらっしゃるのかしら?何でもかんでも、新しいものを取り入れることが良いわけではありません。現に、異国の文化を取り入れすぎたせいで、気が付けば、その国の属国になってしまった、なんてこともございました。この国は、もう十分に異国のものを取り入れています。これ以上何かを取り入れる行為は、危険でしかありません。ましてや、異国の宗教の信仰を許すだなんて、言語道断。あり得ません。第一、それは皇族が神の血筋だということを否定するようなものでしょう?それはどう考えても、皇帝陛下。ひいては、皇室における不敬でしかありません。」
「異国の文化を取り入れれば、宗教とて、自然と入ってくるもの。それを弾圧したりすることがあれば、その国との関係が悪化するのは明白。貿易をはじめとした外交にもひびが入るでしょう。それは、今は良くとも、後々必ず大きな亀裂となり、下手をすれば戦争へと発展してしまう可能性もあります。それならば、最初から認めてしまった方が断然マシだと思うのですが。」
そう。今現在の貴族の派閥というのは、異国の宗教を取り入れるか否かというものであり、革新派、中立派、保守派の三つがある。
その中でも、革新派の筆頭は、私の実家である明家。保守派の筆頭は、賢妃の実家である泉家になる。
この両家の確執は、もう百年以上続いているため、今更どうこうすることでもない。
そして、革新派である私たちの言い分は、私が先程述べた通り。
保守派に関しても、賢妃の述べた通りだ。
ついでに言うと、今代皇帝陛下は革新派であり、皇太子である飛龍さまも同様だ。
まあ、今は下手に動かすときではないとして、それぞれの派閥の力関係は、大体均等になっている。
しかしながら、ご覧の通り、革新派と保守派との考えが見事に食い違っている状態なので、その話になると、いつも平行線になってしまう。
しかし、私もこればかりは譲れない。
そのため、私と賢妃の舌戦は、どんどん白熱していくこととなる。
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