第7話 取引 後編
「…要約すると、お前はもともと私への入内を快く思っておらず、更に留学したいという願いのため、先ほどのような話を持ちかけてきたわけだな。」
混乱の後、まとめた思考を整理する東宮。頭の回転が速い。
「ええ。そうです。下賜されずに実家へ帰された令嬢は、ほぼ間違いなく出家しております。すなわち、これは次の結婚相手が現れなかったということにほかなりません。その状況を、望んでいるのです。上手くやれば、円満に留学できますから。」
私は、東宮の言葉を肯定しつつ、自らが望む展開を説明する。
「承知した。まさかこんな事を提案されるとは思わなかったが、私も異存はない。協力しよう。」
「ありがとうございます。それでは、今後この宮殿にいらっしゃらなくても大丈夫ですよ。ですが…公の場に出席する際は打ち合わせをしたいので、来て下さい。お時間は合わせますので。」
「…感謝する。ところで…」
理由はわからないが、東宮が言葉を詰まらせる。早く言ってほしい。取引が成立した以上、さっさと眠りたいから。
「女にしておくのはもったいないと。言われたことはないか?」
「ありますよ。」
私は、即答した。
東宮はそのことに少なからず驚いているようだけれど、私としては、今更な話だ。
兄さまに知力でも武力でも勝っていれば、そんなこと、誰からでも言われるに決まっているでしょうに。
今の考えを、人は自惚れと呼ぶのかもしれない。
でも、これは私が私を客観的な視点から見て、下した結論だから。
誰にも、否定させはしない。
「言いたいことがそれだけならば、もうお帰り下さい。泊るつもりはないのでしょう?それとも、私の身分上、世間体が悪くて本日は宮廷に帰れないようでしたら、泊って行かれますか?私は長椅子で寝ますので。」
必要事項をつらつらと並べると、東宮は
「本当に頭の回転が速い…」
と、何故か感心したようにつぶやいた。
「おほめにあずかり光栄です。ですが答えていただけると助かります。」
「…分かった。本日はお言葉に甘えて泊らせて頂くことにする。父上もうるさいのでな。…しかし、長椅子で寝るのは…」
一瞬、耳を疑った。勿論、冷酷無慈悲と評判の東宮が、私が長椅子で寝るという発言に否定的な反応を見せたからだ。
――意外と優しい面がおありなのか?
悶々と考えながらも、口ではちゃんと理由を説明する。
「東宮を長椅子で眠らせることはどう考えても不可能ですし、別の部屋で眠るのも不自然極まりないと存じます。かといって、二年後には分かれるつもりの女と同衾するのも少々問題でしょう。それなら、私が長椅子で寝ることは合理的だとは思われませんか?」
これでいいと思いきや、東宮は、唐突に物凄い爆弾発言を落としてきた。
「これでも夫婦だ。別に問題ないのではないか?」
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