第1話 父からの呼び出し
カツカツと鳴る、やや乱暴な自分の足音だけが響く、やたらと広い廊下。
この先にあるのは、お父さまの執務室だ。
そう、私は現在、お父さまから執務室へ来るようにと言われ――もとい、呼び出されたのだ。
基本的に、自分の子供に会うときは自分から会いに来ているお父さまにしては、珍しい。
故に、お父さまが私やお兄さまを執務室に呼ぶことは、それ相応の理由――出来事が起きたということに他ならない。
――これは、絶対に面倒ごとが起こったな。
廊下の途中に飾ってある父の収集品こと貴重な壺を横目に見ながら、溜息を
特に今回は、注文した本が届いたばかりだったため、私の機嫌は右下へと下がりっぱなしだ。
まあ、しょうがない。こういう親からの呼び出し等、子供からすれば理解不能かつ理不尽な態度を受けることは、貴族の家に生まれ落ちた者の宿命だ。
まあ、呼び出す機会くらいは伺ってくれと、文句は言わせていただくが。
ここまで考えたところで、突き当たり――お父さまの執務室の前へ着いた。
何があったのか、という内心ずっと感じていた不安を押し殺し、努めて淡々とした口調で、
「失礼いたします、
と、別に要らないと分かっている挨拶を述べる。
「淳華か。入れ。」
どこか硬い声色と暗い表情で、返事を返すお父さま。執務室には既に、呆れたような顔をしたお母さまと、お父さまそっくりな表情をしたお兄さまがいて、お母さまはお父さまの隣に、お兄さまは一人で、向かい合った長椅子に座っていた。
――せっかく、不安を押し込めたのに。
捨てたはずの弱い気持ちが、どんどん膨らんでくる。
座れと促すお父さまにうなずいて返し、大人しくお兄さまの隣りに腰掛ける。
どことなく気まずい沈黙が流れる中、侍女頭の
コホン、と咳払いをしてから、お父さまは話し始めた。
「淳華。この度は、お前に大切な話があった。まあ、一言で言うと縁談だ。」
「縁談…」
確かに、私は18で、この国の基準でいうと、結婚を考えるにはやや遅めの年齢だ。
だが、今までに結婚の話が出なかったわけでは
ただ、お父さまが武官を家に呼べば、
そのような
お父さまは、意を決したように口を開いた。
「実は…その相手というのが…と、東宮なのだ…」
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