序章

 昔から、書を読むことが好きだった。身体を動かすことが好きだった。

成長しても、その性質は変わらず、むしろ大きくなっていった。

毎夜眠る直前まで書物を紐解き、時には自分も文章を書いてみたりした。何気ない日常について。起こりがちな笑い話。

そして、私が創った世界の、私だけの物語を。

武家の姫は、敵から狙われやすい。家の、数少ない弱みだから。

その言葉とともに、幼い頃から、父が、兄が、臣下が教えてくれた武術が、大好きだった。鍛錬ばかりしていたら、いつの間にか、お兄さまに勝つことができるようになっていた。

常に書物を読むか鍛錬をするかしていたから、十三になるころには、知識量は文官並み、戦闘能力及び身体能力は共に武官並みになっていた。

でも、分かっていた。女は文官にも、武官にもなれないことくらい。伊達に本の虫だったわけではないのだ。

宮廷女官になることだって、後宮女官になることだってできるのに。

でも。理解していても、受け入れられなくなっていた。

どうして、女は文官にも武官にもなれないんだろう。どうして、私は男に生まれなかったんだろう。

悔しい。

ちゃんとわかっていたはずなのに。どうしても、諦めきれなかった。私の、夢。

お父さまの後を継いで、武官になる、夢。

かなうはずが、ない。私は女で、お父さまには、お兄さま、楝楊れんようという後継者がいる。

でも、どうしても、認めたくなかった。自分は、政略の駒でしかないのだと。

お父さまは、そんなつもりはなかったのかもしれない。現に、私のことを愛してくれているのだと、それくらい、理解している。

でも。好きなことができないのなら、やっぱり、政略の駒でしかないのだと。

そう、思ってしまうのだ。

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