相性って大事よね。
男は女を自分の点数を上げる為の存在だと見なす事が多い。
如何に他の女よりも可愛いか、如何に優れているか。
一緒にいてどれだけ自分を映えさせる事が出来るかで、その女の価値が決まる。
世の中の男性全てがそうだとは思わないけど、私が今お付き合いしているこの男は間違いなくそう思っている。建設会社の御曹司、
見た目ルックスは悪くない。御曹司だからお金もある。
お付き合いしていると友達に言うだけで、返ってくる言葉は総じて羨ましいだ。
私はその言葉に口元をひきつらせながら愛想笑いを返す。多分、今の私は誰がどう見ても夢の玉の輿に乗ったお姫様なのだから、否定する何てとんでもないこと。
彼との出会いはお見合い。
両親から出席しないと家が潰される、と脅されて出席したお見合い相手が前園さんだった。
御曹司だったし、結構年上だったけど顔も悪くないし。
桜舞い散るお見合い席で彼を始めて見た時は「両親グッジョブ!」って内心ガッツポーズ決めたけど、いざ付き合い始めてびっくり仰天。高学歴高収入高身長、いわゆる三Kの条件を満たしているこの人が、お見合いをしてまで結婚相手を探していた理由が即座に理解出来てしまった。
「毎朝おはようの連絡をして欲しい、他にも車に乗る時は靴を脱いで欲しい」
思わず「は?」と言ってしまいそうになるのをグッと堪えて、彼の要求の一つ一つをメモに取った。相手は御曹司だ、これはきっと千載一遇のチャンスなんだからと。
・常に可愛くしろ。
・体重は四十七キロ以上になるな。
・仕事を辞めて俺に尽くせ。
・二人で出かける時はお弁当を作れ。
・甲殻類アレルギーにジャガイモのにちゃっとした食感も嫌いだ。
・毎晩俺の相手をしろ。
・先に寝るな。
・子供が出来ても女でいろ。
・化粧をしないで俺の前に現れるな。
途中で何かがおかしいって気付いた。あれ? これ私の自由無くない? いやいやいや、皇室に嫁いだ訳じゃないんだからそこまでする必要ないでしょ? それでもと両親の顔を立てて結婚を前提にお付き合いを始めた訳ですが。
体のいいお坊ちゃま君な彼は、傲慢の限りを尽くしてくれた。
荷物持ちは当たり前、三歩後ろを歩くのも当たり前。
会合やパーティに参加する時は喋ってはダメ。出されたものに手をつけるのもダメ。
毎朝のルーティンの邪魔をしてはいけない、洋服の畳み方が違ってはダメ等々。
がんじがらめにされて嫌になったけど、それに輪をかけて嫌だったのが夜の相手だ。
毎晩夜の相手をしろって言われた時から、それなりの覚悟はしていた。
もう私も二十三歳だし、そんな初心な女じゃない。どんな要求でも応えてみせるつもりだったけど、初っ端から「処女じゃないのか」って露骨に嫌な顔をされた時はちょっとムカッとした。
性格とアソコって一致するのかな。異常なまでに大きい彼のアソコは気持ち良いを通り越して痛い。ただただ痛い、しかも絶頂までが長い、超がつくぐらいの遅漏。更にベホマ。
奉仕しろって奴隷みたいに扱われて、二言目にはもう経験済みなんだから平気だろって。
少しは大事にして欲しかったけど、きっと彼から見て私はオナホなんだと思う。
寝てようが何してようが彼のアソコが
痛いし長いし、たまに血も出てるし。
私はどちらかと言うと感じやすい方なはずだし、優しくしてくれるのが好き。
ピロートークを甘くして、時間をおいて二回戦目があったり無かったり。その程度でいい。
そういうのが好きなのに、この野獣は容赦が無さすぎる。
眠いの関係無い、痛いのも関係ない、トイレに行きたいのも関係ない。
色々な意味を込めてもう無理、少しは私を理解して欲しいと言ったところ。
「ふざけるな!」ってビンタされた。
私、一応女の子。
多分ね、限界だったんだと思うよ? 頑張った、私は頑張ったよ。
なのに言われた言葉はふざけるなの怒号と共に始まるお説教だった。
好きなボドゲも遊ばないで、友達との縁も切られて、頑張って入社した会社も退職して。
全部無くなって一緒になろうとした人はクズでした。
「いい加減にして! 私って貴方にとってなんなの⁉ 全然大事にしてくれないし文句しか言わないし! しまいには暴力⁉ 本当最低! 信じられない!」
「なんだその喋り方は! お前は俺の妻になる女なんだろうが!」
「は⁉ 結婚を前提にお付き合いしただけですぅ! 前提は予定! 予定は未定! もう全部終わり! 貴方との結婚ごっこはもうおしまい! 本当にありがとうございました!」
ちょ、ちょっと待てよ! って声が聞こえた気がするけど。知らない。
一緒にいてストレスしか生まない関係なんて、恋人でも、ましてや夫婦ですらない。
貰った物は全部高価な物だ、慰謝料として少しぐらい持ち帰ろうかと思ったけど、やめた。
思い出の何一つとして残したくない。
彼と一緒に住まう豪邸から持ち帰ったのは、わずかキャリーケース一個分の私物。
一年半も一緒にいてこれしか無かったのかって、ちょっと驚いてしまうぐらい少ない。
違う、持ってきたけど捨てられたんだ。
俺に見合う物で着飾れって言われて、問答無用で全部捨てられたんだっけ。
やっぱり別れて良かった。
ちょっと怖かったのは報復だったけど。両親から聞くと特に何も無かったらしい。
むしろ相手の両親から「一年半も良く付き合えたね、偉い」って言われたとか。
お前のとこのドラ息子だろうが! ふざけんな! ってベッドに突っ伏しながら叫んだ。
何はともあれ矢桜香苗、ヤバイのと縁を切り第二の人生を歩む事になりました。
無職だけどね。でも、自由なのが一番いい。
適当なバイトでも探しに行こうかなぁ……。
――
次話「出会い」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます