第5話 新人参入



 月日が流れて、ハルジオンに入ってから一か月くらいが経った。


 あいかわらず、へっぽこだけど。


 そんな私には、後輩ができた。


 ギルドの中で一番の新入りだった私に。


 つまり私は先輩になってしまったのだ。


 ハルジオンに新たに入ったギルドメンバーの名前は、ルニィ・トーチカという男の子だ。

 一応年下の赤い髪の男の子。


「まぁ、よろしく。別に、よろしくしたいなんて思ってないけど、挨拶って必要だろ。だから一応しとく」


 ぶっきらぼうなのが特徴。

 言ってる事はよく分かんない。


 ルニィは手先が器用な男の子だった。


 大工の仕事が得意で、壊れた施設の壁とか床とかもあっという間になおしてくれる。


 そして、しっかり者だから、自分の出来る事と出来ない事をちゃんと分かってる。

 無理をしたり、へまをして皆を困らせる事はないのだ。


 私は先輩の矜持をまもるために、精いっぱい先輩ぶるんだけど。


「ねー、ルニィ。何か困ってる事ない?」

「別にねーし、姉ちゃんはあっち行ってろよ」

「むー」

「ま、見てる分なら邪魔には思わねーけど」


 声をかけたらやっかい払いされてしまった。


 後輩ができたら、色んな事教えてあげようと思ったのに。

 ちょっとがっかりだ。


 ルニィはあっという間に自分のやるべき事を片付けてしまった。


 手を出す隙が一つもない。


 そういったらスフレには「恰好つけたい年頃なんですよ、あの年齢の男の子は」と言われてしまった。


 そういうのちょっと、よく分かんないです。







 そんなルニィは炎の魔法が得意だ。

 すごい勢いの炎を操ってあっという間に魔物を倒してしまう。


 その日は、エデンに行って素材とか魔石とかを集める日だった。


「炎よ吹き荒れろっ!」


 ルニィが呪文を唱えると、あっと言う間に敵は消し炭になってしまった。

 燃え残りが無いくらいすごくて、あっという間に黒こげ誕生、と言った感じだった。


 それを見た皆は、ルニィの事をすごく誉めてる。


「さすがだなルニィ。期待の新人、炎獅子のルニィってところか」

「ギルドの顔になる日も近いかな、こりゃあでかくなるぞ!」

「期待のホープか。ははは、でも調子に乗るなよ。俺達にまだ先輩風、吹かせてくれよな」


 頭をなでたり、こづいたり。楽しそう。


 私なんてまだつむじ風みたいなのしか出せないのに。

 なんだか、ずるい。


 ルニィだけ強くてずるい。

 ルニィだけ誉められてずるい。

 ルニィだけ才能があってずるい。


 どうして、神様は平等に才能を分配してくれないんだろう。


 私はいつまでたっても、おちこぼれで大した事できないままなのに。


「何むくれてるんですか、シノンさん」

「むくれてなんてないもん」

「そういう態度がむくれてるっていうんです」

「知らないもん」

「ほら、ルニィさんがシノンさんに褒められたがってますよ」

「何で?」

「さあ、何ででしょうね」


 こっちをちらちら見てくるルニィにあっかんべをしたら、なぜかちょっとショックな顔をされた。


 そんな顔しないでよ。


 私が悪いみたいじゃん。








 エデンにはどうしても人が入れない場所がある。

 それがメディカル・ラボという施設だ。


 その建物を目指して歩いても歩いても、どれだけ時間をかけても、一向に辿り着かないらしい。


 メディカル・ラボは文献とか歴史書の中では、ちょっとしか書かれていない。でも、大昔にはすごく便利な薬をたくさん作っていた場所みたい。


 今はどうしてか動いてない。


 どんな病気もあっという間に直してしまう薬や、体力が増えたり、魔法の力が大きくなったりする薬もあったらしい。


 昔の時代には、今の時代より色んな事ができて、とっても豊かで便利だったようだ。


 でも、そんな時代は一度滅んでしまったらしい。


 この時代の皆は不思議がってる。


 すごい技術がたくさんあったみたいなのに、どうしてだろうって。


 一説では天災のせいだって言われてる。


 隕石とか気候の変動とか、人間にはどうしようもない物のせいで、文明が滅茶苦茶になったんだって。


 それくらいしか考えらえないな。


「あれっ? 何か聞こえたような」

「どうしたんですか? シノンさん」

「んー、気のせいかも。何でもない」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る