第6話 無為な努力



 ルニィはあっという間に強くなって、ギルドの中心になっちゃった。


 それにくらべて私は、ぜんぜん。


 でも、少しだけ成長できるチャンスがあるんだ。


 この世界には人に害をなす魔物がいるけど、反対に人に協力的な存在もいる。

 それが精霊。


 精霊は、小さくて、ふわふわしてて、半透明で、ちょっと可愛い生き物。


 動物みたいな見た目をしているんだけど、精霊には透明な羽が背中に生えてる。


 精霊と契約すると、ちょっとだけ魔法の力が強くなったり、特別な力を使ったりすることができるらしい。


 だから、私は強くなる特訓の一つとして、精霊と契約できないか考えていた。


 でも、精霊は滅多に人前には現れないから、全然見つからない。


 今まで一度も見た事が無いから、人生で一回見たら、それでも幸運な方みたい。


「えっ、精霊?」


 でもある日私は、そんな珍しい背霊を見つけちゃったんだ






 珍しい精霊を見つけられた!


 だから、強くなるチャンス!


 って思ったのに。


「くすくすくす」

「むうううーっ、何で契約してくれないの!」

 

 私の目の前によくあらわれるようになったのは、意地悪さんだった。


 リス見たいな姿をした精霊は、よく私の目の前に現れるようになったけど、性格が悪い。

 私の失敗を冷やかしたり、笑ったりするだけで、契約はしてくてくれないのだ。


 魔法の練習して、失敗したら、けらけら笑うんだよ。


 ひどいよね。


 今も小ばかにするように、飛び回ってる。


 精霊はとても気まぐれで、気に入った相手としか契約してくれないらしい。

 だからこれは、私に興味はあるけど、契約するまでじゃない、という事なのだろう。


 そこにスフレがやってきた。

 すると精霊は隠れちゃう。


 人見知りなのは、その精霊だけじゃない。


 みんな同じらしい。


「シノンさん、そんなに真っ赤になってどうしたんですか?」

「スフレ聞いてよ、精霊がいじわるしてくるっ!」

「はいはい、精霊ですね。何と見間違えたんですか」

「本当にいるんだもんっ!」


 精霊は本当にいるのに、スフレは信じてくれてないみたい。


 私はとっても「むーっ!」だ。


「本当なのに、スフレの馬鹿っ、だいっきらい」

「むくれないでください。まったく。いつまでたっても子供なんですから」


 好きで子供でいるわけじゃないもん。


 私だって、ちゃんと皆みたいに、しっかりした大人になりたいんだもん。


 それができないなら、せめてルニィみたいになりたいんだもん。


 なのに、ぜんぜんできない。


 いくら頑張ってもできないよ。


 こんなの、とっても辛いのに。







 それからも精霊のご機嫌取り、協力のお願いはしてみたけどなかなかうまくいかない。


「ねー、どうしたら協力してくれるの?」


 どうしても分からなかったので精霊本人にも聞いてみたのだが、「?」という感じの反応をされるだけだった。


 小首をかしげられる。


 精霊とは、言葉が通じないので、細かい事は伝わらないのだ。


 おおまかな喜怒哀楽くらいしか伝えられない。


「むぅ」


 膝を抱えながら、地面に絵を描いていじけてると、近くから声が聞こえて来た。


 どうやら誰かがハルジオンの建物の横を通りかかったらしい。


「ほあー、ここが都会! 広い! 広すぎるが! そんであたしは、さっそく迷ったが! 姉さんは言っていた、都会に言ったら必ず迷子になるぞ、と。本日のあたし、迷子になってました!」


 その子は、変な言葉遣いの女の子の声だった。







 道に迷った女の子の名前は、ククリというらしい。商人志望。


 商売をするために小さな村からやってきたのだが、道に迷ってしまったらしい。


「知り合いの家に、当分の間泊めてもらう予定だったんですが! その家がさっぱりなものでして! 本日のあたし、道に迷って野宿しました。にならないかとひやひやものなんです!」


 ずいぶん特徴的な喋り方をする女の子だ。

 個性というものが爆発してる勢いだ。


「魔法が使えるようになる薬があるって聞いて、おったまげ、仕入れて売りさばいて大儲けしようと思ったんですが。聞けばただの噂だったとかで、世の中簡単にはいかないものですな! がっはっは! 今日のあたし、噂話の被害に遭いました!」


 ちょっと煩くなってきたかも。

 喋ってないといられない性格なのかな。


 私はそんなククリを道案内している最中だ。


 町の中はそれなりに詳しくなったはずだけど、目的地にはまだ辿り着かない。

 だって、ククリの地図って手書きで、全然よく分かんないんだもん。


 乱暴に書かれてて、記号なんだか、文字なんだか分からないのがごちゃごちゃしてるし。

 商人になったら、値札とかかかなきゃいけないんだけど、大丈夫なのかな。


 思わず心配になってしまった。


「錬金術師のアロマ・ラブラトッテさんとこの道を右に? この地図あてになるの?」

「イエス、そう右にゴーイング!」


 アロマさんは、お菓子の品評会に参加した時、一緒にお菓子を作った仲だ。


「はねはねの宿の道を左に? こっちで本当に大丈夫なの?」

「オウケイ! レッツ・ロード!」


 はねはねの宿は少し前まで旅人のイース・ガンティアさんが泊まっていた所。

 私に似てるって知り合いがいるっていってたけど、会えたかな。







 でも、数時間歩いても見つからないままだった。


 ククリの地図、難解すぎる。


 それで、夜になってしまった。


「あー、さすがに悪いので、もうここら辺で大丈夫ですが。今日のあたし、野宿しました。という事で、これ以上は、善意の協力者サマをつきあわせられません」

「ん、でももうちょっとだけ探す。野宿は危ないよ、最近事件ばっかりだったから。治安がちょっと悪くなってるって、スフレが言ってたし。この間だって、たくさん子供が誘拐されたし」

「げげぇ、そげな事になっとるんどすえ!!」

「どすえ?」

「失礼、狼狽すると自分的方言が大流出してしまい。忘れてくだせえ」


 とにかく、もうちょっとだけ探してあげる事にした。

 だって、外で寝泊まりするなんてとっても可哀そうだし、危ない。


 襲われたり、盗まれたりしたら、大変だ。


 ここまで探したのなら、もうちょっとぐらい付き合ってあげたい。


「シノンさんは優しくて良い子ですなー。今日のあたし、現地の人の優しさに癒されました!」

「優しくっても意味ないよ。私、皆と違って何にもできないし」

「そんな事ないですが!」


 ククリが、がしっとこちらの手を掴んで力説し始めた。


「人望だって、大切な個性ですが! ねーさまも言ってやがりましたが。カリスマは鍛えられるものではないと。それは立派なシノンさんの力です。じゃないと、出会って一日でお友達になりたいなんて思いません、と言う事でお友達になってくださいまして!?」

「えーと、良いけど」


 言葉が変だったけど、大体理解した。

 言いたい事は分かるし、良い事言ってくれてるのもわかるけど、マシンガントーク過ぎて面食らう。

 もうちょっと間を挟んで喋った方が良いと思った。







 それからさらに数時間。


 私達の努力は幸いにも実った。


 ククリの泊まる家が、無事に見つかった。


「ありがとうっ、ありがとうっ、永遠の友よ。今日の私、生涯の友人に出会いました!」

「えっと、うん。じゃあね」


 それで、涙ぐんで感極まっているククリに手を振って別れて、ギルドに帰った。


 遅くなりすぎちゃったから、皆に叱られちゃう。


 でも困っている人を助けてあげたんだから、きっと最後には褒めてくれるはずだ。


 だって、ギルドの活動方針は人助け。


 私は、良い事をしたんだから。


 帰り道を歩いていると、精霊がどこからともなく表れて、祝福の光を放った。


 それは、契約した証だった。


 唐突だった。


 前触れなんてなかったのに。


 どうしていきなり?


「えっ、いいの!」

「くすくすくす」


 精霊は、楽しそうに「くすくす」笑うのみで、何も言ってくれない。


 いつもみたいにけらけら笑いじゃないのは、違和感、


 けど、祝福の光を浴びてから、何だか体の中に大きなエネルギーが湧いてくるような気がしたので、契約できたのは本当のようだ。


 これで強くなれるのだ。

 皆の役に立つことができる。


 そう思うととても嬉しかった。


 これから、色んな事ができるようになるんだ。


 なんだか色々うまくいきそうな気がした。


 私は、軽い足取りでギルドハルジオンへと変える。








 でも。








 でもね。










 でも、これからなんてない。








 理不尽は唐突にやってきくる。

 全部、知らない所で終わって、終わりを告げていた。


 物語を進めるためのフラグは回収されなかったから。


 あとは抵抗も出来ずに終わっていくだけ。


 私はそれらに関われなかった。

 何一つ。


 だってこの物語での私は主人公じゃなくて、ただの小娘でしかなかったのだから。


 もし他の物語があるなら、そこでは私は主人公になれていたのかな?














 エデンにある研究所から、真っ黒なそれがあふれ出した。


 黒は人々を飲み込んで、そして全てを死へいざなっていく。


 抵抗するすべはない。


「エリー、町の人達を避難させるんだ!」

「だめだ、もう間に合わない!」

「うわぁぁぁぁ!」


 多くの人達が黒に飲み込まれて、無へと還っていく。


 零へと還っていく。


 消滅していく。


「なんで、なんでこんな事になるんだよ!」

「ルニィさん、逃げてください」

「俺、一人で逃げられるかよ!」

「駄目です! ルニィさん!」


 老人も、大人も、未来ある子供も。


 すべて平等に。


 ある人がつぶやいた。


 神様は、人生の始まりを不平等にしてしまった。


 だから、反省して終わりを等しく平等にしたのだと。


「シノンさん、シノンさんどこですか!」

「スフレ!」

「ああっ、無事でよかった」

「スフレ、後ろ! 逃げて!」

「えっ。きゃあ」

「スフレ!」


 この物語に意味はない。


 この物語は始まりから終わりに至るまで、全てが無駄である。


 だから。


 つまり。


 ゆえに、この物語を読む価値はないのだ。



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