悲しい顔するなよ

仕事が終わり颯爽と立ち上がりわたしのデスクまで来た佐田さんが

「じゃ行くか」

「はい」

お上品に小さな声で言ったものの......。

わあ、注目の的である。

ただの食事だっつーの!そんな人を罪悪感に落とし込むような目を向けないでくだされ。



―――いかにも女性がふぁってなりそうな可愛いおしゃれなお店

深い赤っぽい床に白いレンガ調の壁にはヨーロッパの名所の写真 

照明も間接的な黄色いやつ ところどころにブリキのオブジェが置いてある


「へぇおしゃれなトコですねっ」

「そう?好き嫌いない?」

「ありません」

「じゃ適当にたのんじゃうね」


佐田さん.......うん。申し分ない。男前、紳士的、理想の上司。

しかーしっ。つまんないっ。なんかつまんないっ―――。

別に佐田さんが悪いわけじゃない.....。

わたしか?!つまんないのは......。


「飲み物は?アイスティーもいっぱいあるんだよ種類」

「酒!お酒飲みたいです。わたし。

実は今の仕事はじめて、そーそっ。佐田さんのもとで働きだして、なんか猫かぶっちゃって、ブッチャケ疲れてるんですよーっ ヘヘっ」


「.......」

あっ引いた?んなこったかまいませんッ


「わたしは男前な佐田さん眺められて目の保養になるしっ!楽しいですよ。

佐田さんの楽しみってなんです?わたしは酒豪なんですよっ。酒は百薬の長

ですから。ひゃははは」


「まさか こういうタイプとは思わなかったよ。ハハハハハ あっだからギャップ姫か!酒は百薬の長.....ほどほどならね。」


「はは ですよね。」


「企画にはもってこいだね。君みたいな明るい子。これからはもっと楽しくなりそうだな。今度は気軽に飲める店に行こう。」


ただの職場の上司部下で楽しく食事した。

まっ佐田さんはわたしが美女と思ってるけど.....ヒラメでも同じ対応してくれるのだろうか?



―――――土曜日の朝


『おはようございます 今日どうしますか?夕方からでいいですか〜』

『はーい』

あ、はいをのばしちゃったっ。いっか。そのくらい。


ジュンと並んで歩く。歩き慣れた道。何度ジュンとこの辺りを散歩しただろ、わたし達の庭。

いつもなら、きっと既に原稿用紙1枚分くらいは話してるだろうに。今は2行にも満たない。

仕事や生い立ち全て知ってるのにあえて質問もしたくないっ。いっそ、シンデレラになったって言うか!いやいや頭おかしいよなぁ。言ったら魔法消えたりすんじゃない?それもやだ。


「みきさんは恋人居ないんですか?」

おっと〜きました。そっちの話題から入りましたか。


「いないです。クリスマスに振られましたっ。」


「えっ。クリスマス.....なんて日に」


「でしょ?コートの下にサンタコスプレしてったのにバカみたいっわたし!」


「えー!みきさん、そんな可愛いことするんですね」

可愛いかったよ ヒラメのわたしだってさ。


「ジュンは あっ失礼 ジュンさんは いや 白石さんは」


「ははっなにそれ。いいですよジュンでも」


「あはは。クリスマス 何してました?」


「俺は.....可愛い子とケーキたべる予定だったんですけど、断られました。」

なにその、悲しい顔

そんなにケーキ食べたかったのか.....わたしと

ってか、可愛い子つった?!見え張ったなジュン!


「それは....残念でしたね」


「はい、毎年恒例だったんですよね〜ホールケーキまるまる。」


「そうだ!今からケーキ食べましょっ!ホールケーキ」


「え?」


「行きましょ行きましょ」

そうだっ。美女だけど、気にせずわたしはわたし。穴埋めするぞ。ジュンっ悲しい顔すんな!


たしかここだ。あった!おしゃれで可愛いおとぎの国から飛び出したみたいなお菓子の家っぽい外観。レンガの壁がウエハースぽいし、屋根も切り株みたいなチョコみたいな作りで凝ってる。

毎年決まってここのクリスマスケーキを食べた。小さい5号サイズを切らずにフォークでつつくのさ!一年最後の贅沢〜って


「ここは.....」

あっ!ぎゃっ。勢いで連れてきたけど偶然が偶然を呼びすぎて変だよなぁ.....あちゃ......すっとぼけよう。


「どうしたんですかっ?」


「ここのケーキなんです。いつも」


「偶然ですね。わたしもここ好きです。夢の国みたいで」

あ ジュンがわたしをじっと見てる。まさか面影とか残ってたりする?顔。


「入りましょう みきさん」

「あ はい」

二人で店内イートインでホールケーキ

かなり変な客である。さらに店員さんは私達を覚えてる?!意味深な視線を受ける。


「あの.....」


「はい?」


わたしは普通に既にフォークをケーキに刺していた....。


「あぁ失礼を。こっちから食べますねっ」


「あの.....声が.....似てるんですよね」


「声?」


「はい。ホールケーキ一緒に食べた子と」


「それに、左利き、それから」


ジュンはわたしの手を握った。

右手の手のひらを....見た。わたしの右手の手のひらには普通より少し大きめのほくろがある。

幸せ掴むホクロだと、子供の頃から自慢してた。


「あ ごめん 手...」


急に照れくさそうにジュンが手を引っ込めた。


気付けばわたしが半分を超えてホールケーキをたいらげていた.....胃もたれだ。


わたしは胃もたれを理由に退散したっ。

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