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少女の名前を聞き、近くの大きな病院に片っ端から電話をする。
すると、少女の体は、ここからそう遠くない総合病院に搬送されていた事がわかった。
俺と少女は、病院まで走った。
道行く人々は、全速力で一人駆けて行く俺を見て、不審な顔をしていた。
だけど、止まるわけにはいかない。
事態は一刻を争うのだ。
運動不足の体に、いきなりの長距離走はキツかったが、隣を走る少女の嬉しそうな顔を見ると、自然と足が動いていた。
そしてなんとか病院の入り口に辿り着くと、少女の体が少しずつ、更に透け始めた。
「なんだか……、こっちに引っ張られてる気がする」
不安気な顔で少女が呟く。
良かった、間に合った!
生霊は、肉体に近付くと引っ張られるものなのだ。
少女のその感覚は、肉体が生きてこの病院にいるという証だった。
「おし、近くに肉体があるはずだ。あとはその、引っ張られる側に意識を持っていけばいいよ。ここでお別れだ」
走っていた足を止めて、俺は肩で大きく息をする。
こんなに走ったのは本当に久しぶりだった。
全身汗だくだし、息が切れて喉が痛むが……、気持ちだけは清々しかった。
「ありがとう……、本当にありがとう!」
少女は、泣きそうな顔で笑った。
「いいって! ほら、早く行って!!」
俺は、笑顔で少女の背中を押した。
「うん! おじさん、またね!!」
大きく手を振ったのを最後に、少女の姿は俺の視界からスッと消えた。
病院の受付で、少女の名前を告げて、拾ったピンクの箱を渡してもらうようにと頼んだ。
これまでの経験上、 生霊になっている間の記憶は、体に戻ると忘れてしまうらしい。
受付の女性に、お見舞いに来たのだと勘違いされて病室まで連れて行かれそうになったが、面識のない男がいきなり来たら少女もその家族も驚いてしまうので、丁重に断った上で、俺は逃げるように病院を後にした。
寒空の下、防寒具もなしに、ぶらぶらと歩く。
「結局、最後もおじさんって呼ばれたな……」
そんなに老けて見えるのか? と、若干へこみつつ、北風に背を追われて家路を急ぐ。
「またね、か……」
その言葉が、なぜか妙に心に残っていた。
もうきっと、二度と会うことのない少女の言葉。
ふっと笑って、大きなくしゃみをした俺は、ティッシュペーパーの存在を思い出した。
ズズッと鼻をすすり、くるりと方向転換して、近くのスーパーへと、河原の土手を歩いて行った。
完
ある日曜日の昼下がり 玉美 - tamami- @manamin8
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