あとがき
これほどまでに過酷な製作は、今までにはなかったかもしれません。本作で長編は8作目を迎えるわけですが、ここに来てかつて経験したことのないスランプが、僕を襲いました。ようやく小説の執筆にも慣れてきたかという、このタイミングでスランプです。やっぱり創作は何が起こるか分からないものですね。
まずは、本作を読んでくださった皆様へ、感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。楽しんでくださった方々には信じられないかもしれませんが、本作の執筆は過去最高級に難航しました。かつて経験したことのないほどの大きなスランプに陥り、創作のモチベーションが沸き上がりませんでした。
僕は作品を公開する前に、必ずある程度書き溜めを完了させるようにしています。ストックが無くならないようにしているのです。しかし、スランプによって納得のいく文章が書けなくなり、せめて書き溜めをしておいた話は投稿を続けました。
その結果、なんとストックが無くなってしまうという事態が起きました。それに加え、スランプから脱却できない日々が続き、しばらく投稿が停滞してしまいました。
さらにさらに今年(2023年)の3月に大学を卒業し、社会人として働き始めました。仕事は想像以上に過酷で、創作どころではなくなりました。失敗ばかりの憂鬱な日々が続き、ますます創作に力が入らなくなってしまったのです。
一時期は打ち切りも考えていました。しかし、今まで世に出した作品は皆責任をもって完結させてきています。ここに来て今までの努力をふいにするようなことはしたくありません。それでも、今が辞め時なのではないかと思うほど、僕の心は追い詰められていたのです。
ですが、それでも応援してくださる読者のみなさんの存在が、この上ない励ましとなりました。過去作を読んでくださるみなさんの温かいお言葉に、幾度となく救われてきました。小説というものは、読者の存在がなければ成り立つことはありません。僕の作品を魅力的にしてくれたのは、他でもないみなさんなのです。
そのことに気付き、ようやく気力が沸き起こりました。もちろん全盛期のように納得のいく文章が書けたかどうかは、今でも分かりません。ですが、何とか完結まで漕ぎ着けたことは奇跡です。みなさん、ここまで支えてくださりありがとうございました。
作品の内容の話に移ります。本作は今までとは全く違う作風に仕上がっていると思います。なんせ前作までの「恋愛」ジャンルから一転し、「異世界ファンタジー」に挑戦したわけですから。
異世界ファンタジーなら長編第2作目の『かみさまの忘れ人』でも似たようなお話に挑戦していますが、今回はガッツリなファンタジーです。そのため、恋愛要素は物語の初めと最後辺りに偏り、ちょっと弱めにしてしまいました。あらゆるラノベや漫画を読み漁り、必殺技や魔法の設定を考えました。少々厨二病チックに見えたかもしれませんね……(笑)。
なぜ異なるジャンルに挑戦したのか、自分でも理由はよく分かりません。ただ、自分の中でも毎回恋愛描写に悩みながら作品を書く行程の中で、どこか自分の生み出すものにありきたりさを感じていたのかもしれません。
もちろん僕の作品は、唯一無二の素晴らしいものだと思っています(自分で言うのも何ですが……笑)。しかし、創作者としてもっと自分の作風を、世界を、可能性を広げるためにも、新たなジャンルに挑戦してみるのもアリなんじゃないかと考えたのです。
本作のテーマは、今までと同様「愛する者のために、人はどこまで本気になれるか」に加え、「諦めない心の大切さ」です。透井君や夢ちゃんは、作中で何度もピンチに見舞われます。数々の命懸けの戦闘の中で、もうダメだと思うほどの絶望的展開にぶつかりました。
そこで僅かな希望を見出だし、勝利を収めてきました。下手すれば死んでしまうかもしれない状況で、なぜそんなことができたのでしょう。それはもちろん、「諦めなかった」からです。
人は夢や目標のために努力を重ねますが、報われないと諦めがちです。夢が叶わないことの最大の理由は、「諦めてしまう」ことにあります。努力は続けなければ報われないのは当然です。
もちろん、不可能なことはこの世に当たり前に存在します。「諦めなければ何でもできるって言うけど、じゃあ諦めなければ人間は空を飛べるの?」と言われると、何も言い返すことはできません。しかし、諦めるという行為そのものが、不可能であるという事実を作ってしまっているんです。絶対不可能だという思考が、人間の心から翼を奪っているんです。
特に最終話付近で、その考えは色濃く示されています。記憶を取り戻した透井君(ユキテル)とラセフの死闘で、透井君は死の淵をさ迷いながらも生還し、唯一の家族であるラセフを打ち倒しました。
優秀な弟に王位継承権を奪われ、復讐のために力を使ってきたラセフ。そんな兄とは対照に、愛する者と出会うことができ、彼女を守るために力を使ってきた透井君。両者にはそんな違いがあったからこそ、どちらが勝利を掴み取るかは明白でした。誰かを守る。絶対に諦めない。そんな気持ちの強い方が勝つのです。
愛する者のために発揮する力は偉大です。腕を吹き飛ばされようが、片目を失おうが、愛があればどこまでも突き進むことができます。本作はそんな愛の強さを描いた作品でもありました。
何が言いたいか有耶無耶になってきましたね(笑)。結局、僕が書こうとしてきたものは、本作でも同じだったのです。異世界ファンタジーというジャンルに挑戦しておきながら、愛の素晴らしさについて無意識に語っていたのです。やっぱり僕は、そういうお話しか書けない頭であるようです。
未知のジャンルを乗り越え、スランプを乗り越え、仕事の憂鬱を乗り越え、気が付いたことは、当たり前のように大切にしてきた思いでした。まるで僕まで不思議な世界に転移し、壮大な冒険をして帰ってきたような、執筆期間でした。
今までと少し違うようで、やっぱり同じなような長編第8作目『オトギワールドと夢の架け橋』、楽しんでいただけたでしょうか。こうして完結を迎えたということは、当然今は次回作のプロット制作に移行しております。約1割程度しか完成しておりません。本作以上に難航する予感です。
次回作でも本作で上げた高いハードルを、自分で越えなければいけません。正直越えられる気は全くしませんが、何とか諦めずに頑張ってみます。諦めないことが、夢への一番の近道ですからね。仕事が更に忙しくなるので、公開はだいぶ先になるかと思われます。
それでも応援してくださる方々がいるのなら、僕は命尽きるまで突き進みます。僕の作品が、どこかの誰かの心へ繋ぐ美しい架け橋となるように。
今回も最後まで読んでくださり、誠にありがとうございました。もっと魅力的で、みなさんの心に深く残るような物語を生み出せるよう、精一杯努力を重ねて参ります。どうか次回作にご期待ください。今後もKMTの作品を、ご愛読よろしくお願い致します。
KMT
オトギワールドと夢の架け橋 KMT @kmt1116
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