第102話 美央の誕生日

学校での美央は、彼氏彼女になったからといって特に俺への接し方は変わらなかった。

強いていうなら誘惑などしてこなくなったことぐらいだ。

あと変わったことといえば...


「ひ、氷室さん!今日の放課後...少し話が!」


(またか...)


遥と俺が別れたということが広まったのか、遥が男子に告白される回数が増えた。

遥は可愛く人当たりも良いため、こうなるのは必然的だろう。

果たして誰かの告白をOKしたのか、それが気になるところだが流石に覗いたりはしたくない。




「みやび君!一緒に帰りましょう?」


放課後、美央は俺にそう提案してくる。


「ああ、わかった、帰りにお店に寄ろうか」


「ありがとうございます!」


今日は美央の誕生日である。

なので、帰る途中にプレゼントを買うことにした。



「何か欲しいものはあるか?」


「そうですね...彼氏からのプレゼントなら何でも嬉しいですけど...」


美央はいくつかの店を回った後にそんなことを呟く。

確かに、美央の家はかなりの資産家である。

なので欲しいものはすぐ買ってもらえるだろう。


「あ!そうです!みやび君、一緒に来てくれますか?」


「ん?いいけど、どこへ?」


「着いてからのお楽しみですっ!」


美央は俺の手を引いて、よほど楽しみなのか足を弾ませて目的地へ向かう。



「ここです!」


「...こ、ここ?」


美央に連れてこられたのは、なんと高級そうな宝石店だった。


「私、指輪が欲しいです!」


「さ、流石に指輪を買うお金はないなぁ..」


オモチャの指輪とかなら買えるが、流石にこんなガチガチの指輪は無理だ。


「そこは大丈夫です!私が払うので!」


「なんでそうなるんだよ...」


それじゃ俺が買う必要などない。


「とりあえず私に似合いそうなの選んでくださいっ!」


「えぇ...」


チラッと目に入る部分を見ても、値札には普通の高校生では買えない額が書かれてある。


「プレゼントくれるんですよね?お願いします!」


「い、いいのか?」


「はい!むしろみやび君に選んでもらえて嬉しいです!」


流石に気が引けるので、俺はこの中でも安くて美央に似合いそうな指輪を探す。

まあ安くてもいい値段はするのだが。


「これはどうだ?」


俺が選んだのは、1つの指輪だった。

銀色がメインの指輪で、清楚な美央にはとても似合いそうだった。


「とてもいいですね!ではこれで買ってきてください!」


と言われ、俺の手には1つのカードが渡される。


「え⁉︎あ、えっと...」


「それで買ってきてください!」


見た目は1枚のカードだが、きっと中にはかなりの高額が入っているのだろう。


「どうかしました?あ、一緒に行きましょうか?」


「べ、別にいいよ、買ってくる」


俺は落としてしまわないかハラハラしながらも、なんとかその指輪を購入する。




その指輪は家に帰ってから渡すことにしたので、俺たちはケーキを買って家に帰った。


「少し待っていてくださいね、少しすることがありますので」


そう言って美央はスマホをいじり出す。


「何やってるんだ?」


「お祝いのメッセージが父の知り合いの方などからたくさん来ていますので、先に返しておこうかなと」


「へー」


流石お嬢様だ。

メッセージの相手も学校の友人とかではなく、どこかのお偉いさんだろう。

数分が経つと、美央はスマホを置き俺に「終わりました」と言いケーキを机に置いてくれる。


「...みお、誕生日おめでとう」


「ありがとうございます!とっても嬉しいです!」


美央は嬉しそうな顔をしたが、それよりも顔を赤くし期待した目で俺を見てくる。


「じゃあプレゼントを渡そうか」


俺は美央のお金で買った指輪を美央に渡す。


「あの、着けてくれませんか?」


「ああ、いいよ」


俺が指輪を箱に入った状態で渡した瞬間、悲しそうな顔をしたのですぐに箱を開け、指輪を取り出す。


「じゃあ、手を出してくれ」


「はい...」


すると、美央は左手を差し出してくる。


「ええと、どこにはめればいいんだ...」


「はめる?もう..みやび君はエッチなんですから...いきなりそんな...」


「いや指の話なんだが...」


これはわざとなんだろうか。


「そっちでしたか、もちろん薬指です」


「く、薬指?でもそれは婚約の時とかに着けるんじゃ...」


「みやび君?私たち許嫁なんですよ?将来はもう結婚する未来しかないんですよ!」


「そ、そうか?」


「もちろんです!それともみやび君は私以外と結婚するおつもりで?」


「い、いや、それはないけど」


「では!お願いします!」


「わかったよ...」


俺は少し緊張しながら、美央の左手を支えて薬指に指輪をはめる。

美央の手は白くて細く、本当に綺麗だ。


「ふえー...みやび君との愛の証...」


美央は指輪を着けた指を眺め、見惚けている。


「私...今とっても幸せです...!」


俺を見てニコッと微笑む美央は何よりも綺麗に見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る