第99話 遠足からの帰宅

ガチャ


俺たちは今、遠足から帰り、俺は玄関の扉を開く。


「今から晩御飯作りますけど、少し手伝ってもらえませんか?」


美央はエプロンをつけながら、俺の方を見て言う。


「手伝い?俺が?」


自慢じゃないが俺は料理が全くと言っていいほどできない。

今までの料理経験は1桁だ。

そのうえ、その中のほとんどは学校の調理実習である。


「はい!とっても簡単なことです!」


「まあ、簡単なことなら...」


俺も少しくらいは料理が出来る様になりたいと思っていた。

なので俺もキッチンへ行く。


「それで?何を手伝うんだ?」


「それはですね〜!」


美央はなぜか期待に満ちた目を向けてくる。

そんなに期待されても、俺は野菜を刻むことしかできない。


「私を抱きしめながら可愛いと言ってください!」


「...は?」


抱きしめる?可愛い?

何を言っているんだ美央は。


「だから!私の手伝いをしてくれるんですよね?」


「いや...みおのじゃなくて料理の...」


「一緒です!早く手伝ってください!」


「い、いやだよ...」


いくらなんでもおかしいだろ。

何で急に美央に抱きつかないといけないんだ。


「えー、じゃあ今日のご飯は無しですねー」


「えぇ...じゃあご飯買ってくるよ」


「ダメです!」


俺がご飯を買いに外へ出ようとするが、美央が前に立つ。


「みやび君は私に抱きついて愛を囁くだけで、美味しいご飯を食べられるんですよ?それに...もしそんなことをするようなら...この写真をクラスのみんなにばら撒きます!」


そう言って見せられたのは、俺が美央に抱きつくように眠っている写真だった。


「なっ⁉︎そんな写真、どこで?!」


「前に一緒に寝た時にこっそり撮ってました!」


「...っく、わかった、今日だけな?」


流石にそんな写真をばら撒かれると、俺の腕が男子たちにバラバラにされかねない。


「ありがとうございますっ!」


美央の提案に半ば脅されて乗ることになった。




「可愛いよ...み、みお」


「もう〜!みやび君ったら!甘えん坊さんなんですから!」


「...」


美央のお腹辺りに手を回して、耳元で愛を囁く俺の頭を美央はポンポンと叩きながら「しょうがないな〜」とでも言うようにそんなことを言う。

...これは俺がしたくてやっている訳ではない。

仕方なくやっているのだ...本当に..仕方なくだ。


「後で構ってあげますから!今はあっちでゆっくりしててください!」


「そうかわかった、ゆっくりしてるよ」


「...みやび君?そこは我慢できない!このままで居させてくれ!と言う場面ですよ?」


俺がリビングへ向かおうとすると、美央は当然の事だというふうにそんな事を言う。


「でもゆっくりしてていいって...」


「はぁ、この写真をばら撒く必要がありそうですね...残念です」


美央はさっきの写真をチラつかせる。


「わ、わかった!...もうちょっとこのまま居させてくれないか?」


「仕方ないですね〜少しだけですよ?」


...完全に弱みを握られたようだ。

この時間が終われば消してくれるそうだが、まだこんなのがあといくつあるのか、美央のことだから想像もつかない。


そのまま、慣れた手つきで野菜を刻んでいく美央。


「ふふ、なんだか私たち新婚さんみたいですね!」


「っ⁉︎な、何言い出すんだよ...」


美央の咄嗟のそんな言葉に、俺は不覚にも少し意識してしまう。

俺の目の前には、エプロン姿で俺のために料理を作ってくれている美央の姿。


「ふふ、背中越しでもみやび君の心音がしっかり伝わってきますよ?」


「なっ⁉︎」


俺はつい手を離し、後ろにさがる。

伝わった?そんなにドキドキしてたか?

俺は自分の胸に手を当てる。

すると、確かに俺の心臓は心拍数が上がっていた。


「もお!早く抱きしめてください!」


「わ、悪い...」


俺は美央を再度抱きしめるが、さっきのことが頭から離れない。

ドキドキしていた?俺が美央に?


「さ、あとは待つだけなのであっちに行きましょうか」


美央はリビングを指差す。


「あ、ああ」



「もう、みやび君は本当に甘えん坊さんです!」


今、リビングのソファーで俺は美央の膝の上に頭を乗せている。

これも美央に提案されたことだ。

美央の太ももはとても柔らかく、本当に居心地がいい。

そして、上を向くと美央の顔は見えず、大きい山のようなものが2つ見える。


「前にみやび君にしてあげた時、気持ちよさそうにしてましたから、どうですみやび君?気持ちいいですか?」


「まあ...気持ちいいよ」


それからしばらく美央の膝枕を堪能していると、


「そろそろ出来るので一旦終わりです!ではご飯の準備をしますね?」


美央は俺の頭を膝から下ろし、ご飯を持ってくる。

しかし、何か異変を感じる。


「俺の箸は?」


何と、俺の箸が用意されていない。

自分で取ってこいということだろうか。


「え?私が食べさせてあげますからいりませんよ?ほらあ〜ん!」


美央は当然のように俺に箸を向けてご飯を運んでくる。


「むぐぅ、おいみお!」


美央は自分の箸で無理やり俺の口に入れてくる。


「今日の私たちは夫婦ですから、遠慮しないでください!」


いつ俺たちが夫婦になったんだ...

とはいえ、結局美央にご飯を食べさせてもらい、なんとか夕飯を食べ終えた。


「あ、お風呂入って来てください!」


「...わかった」


俺は美央に言われるまま、お風呂へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る