第96話 遠足①

「みお、着いたぞ」


俺の肩にもたれながら、気持ちよさそうに眠っている美央を起こす。


「んむ?..おはよぉございまーす」


「目的地着いただけだぞ?」


美央はまだ眠いのか、目をこすりながら外の景色を見る。


「あ、そうでしたね、今からみやび君と2人きりで濃厚な時間を...っ〜!」


「別に濃厚な時間でもないからな?」


美央はなぜか顔を赤くして自身を抱きしめ悶えている。




「今から自由行動だ、17時前までには戻ってくるように」


と言われ、俺たちは自由行動となる。


「みやび君っ!早く行きましょう!!」


美央に手を引かれ、俺たちとりあえずどこかに入ろうと思い、近くの動物園に入った。


「わぁっ!おっきいですね〜」


「そうだな」


美央はぞうを見ながらはしゃいでいる。


「私!動物園に来るの初めてなんですよ〜!」


「え?」


美央は衝撃の発言をする。


「は、初めて?動物園が?」


「はい!」


そうだった。この子の親はどこかの社長さんでかなりお金があり、美央は箱入りのお嬢様のようだ。

今まではあまりそんな素振りを見せなかったが、事前に調べていたのだろうか。


「本当にぞうさんって大きいですね〜...ところでみやび君のぞうさんは...お、おっきいんですか?」


「よし、俺たちはもう帰るか!」


この子は何を言ってるんだ...

美央は突然俺の下半身を見ながら、少し頬を赤く染めてとんでもない下ネタをぶっ込んでくる。


「えー!もう飽きちゃったんですか?」


「そんなわけないだろ、誰のせいだ...」


「えー?私はただ気になったことを聞いただけですよ〜」


最近の美央は本当に暴走気味だ。

こっちの身にもなってほしい...



「あっ!ここでは動物と触れ合えるんですね!みやび君!入りましょ?」


そこは猫と触れ合える広場のようなところだった。


「わかった、でもさっきみたいな事言ったら即出るからな?」


「了解です!任せてください!」


美央に任せるのは少し不安だが、流石にこんなところで変な事はしてこないだろう。


「はぁ〜!可愛いですっ!」


美央は早速一匹の猫に近づく。


「ぜひ抱っこや膝の上に乗せてあげてください!」


美央が目を輝かせながら見ていると、店員らしき女性にそんな事を言われる。


「いいんですか!?じゃあ!」


美央はその猫を抱っこし、近くのベンチに座って膝の上に乗せる。


「わぁ〜!見てくださいみやび君!とっても可愛いです!」


「あ、ああ、可愛いな」


確かに猫も可愛いが...

俺は猫と戯れ合う美央の方が何倍も可愛く見えた。


(くそっ...さっきからセクハラばっかりだったけど普通にしてたらこんなに可愛いなんて...)


「ほらほら彼氏さんも!この子を抱っこしてあげてください!」


「え?あ、はい...?」


すると、さっきの店員が再び近づいてきて俺に一匹の猫を抱っこするように渡してくる。

ん?...彼氏?


「ほらほら彼女さんに言ってあげないと!お前の方が可愛いよ!ってね!」


「っ⁉︎ちっ、違いますから!」


この人は何を言っているんだ...

その店員は美央に聞こえないようにそんな事を囁いてくる。


「またまた〜!彼女さん、さっきから彼氏さんに来て欲しそうですよ!」


美央を見ると、店員と俺が何を話してるのか気になっているのか、心配そうに俺を見ている。


「ほら!行ってあげてください!」


「ちょっ!ちょっと!」


店員に背中を押されて、俺は美央に近づく。

俺は美央の隣に座るが、俺は少し気まずくなる。


「...」


俺はさっき店員に言われた『彼氏』という言葉が頭から離れない。


「?、みやび君!見てください!この子私の膝の上で眠っちゃいました!」


「お、お〜」


「むぅ...なんですかその反応...」


美央は不満そうに呟く。


「こっち見てください」


「ぁ、ああ...」


膝の上に寝ている猫を乗せている美央は非常に絵になる。


「さっきから少し変ですよ...心配です...」


俺の頬に軽く手を添える美央は、本当に心配してくれているようだ。


(ホントにやばい...)


本当にそんな事をしないでくれ、普段とのギャップで更に可愛く見える。


「可愛いな...」


「んへぇっ⁉︎み、みやび君...今何と..?」


「えっ⁉︎あ、その...」


「ふふ、みやび君は本当はそんな事を思っててくれたんですね〜!ではもう一度繰り返して言ってみましょうか?せーのっ!...」


「あ!白雪さん!奇遇だね!」


俺が先ほどの言葉を復唱させられそうになっているところで、遠足前に話しかけてきたあの男子3人が俺たちのところへ近づいてくる。


(こいつら狙ったな...)


おそらく着いてきてるんではなかろうか。


「ちっ...」


美央は3人に聞こえない程度に舌打ちをしている。

今回は割と本気で怒ってそうだ。


「白雪さん、よかったら俺たちとも一緒に周らない?」


「無理ですね!」


美央は即答した。

よほどこいつらと周るのが嫌なようだ。


「えー、そんなこと言わずにさ〜」


「無理と言ってるんですが?」


「なっ...」


美央の強い口調にそいつらは少し戸惑いを見せる。


「だ、だったらなんでこんな奴と一緒に歩いてんの?釣り合ってないやつより俺たちと...」


「...みやび君、行きましょう」


「あ、ああ」


美央は表面上はにこやかだが、美央と長い付き合いになってきた俺ならわかる。

今の美央は本気でキレてる。

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