第94話 初イベント

「あ!おはようございますみやび君!」


朝、エプロン姿で美央が俺の方へ向かってくる。


「おはようみお」


「ご飯できてますよ、一緒に食べましょう?」


「ああ、もらうよ」


机には俺と、その隣には美央のご飯が置かれていた。


「ご飯、どうですか?」


「美味いよ」


俺は美央の目を見ながら答える。

美央は俺の目を見ると嬉しそうにして


「よかったです、元気が戻って」


「まだ万全じゃないけどな、みおに言われた通り、前を向いてみようと思う」


(そしてあわよくばはるかとの関係も戻したいところだが...)


「ふふ、そうですね、頑張りましょう」




学校に着き、遥の方を向くと友人と何やら喋っていた。

流石に会話を盗み聞きはしたくないのでそのまま通り過ぎるが、その時遥が少しだけこっちを向いた気がした。

しかし、俺が遥の方を向いても遥は友人と談笑しているだけだった。


(気のせいか...?)




「早速だが、新学期で喋ったことない奴とも交流を深めるため...遠足を行います」


(えー...)


周りからはやったー!などの歓喜の声がちらちら聞こえてくるが、俺はかなり嫌だ。

なぜなら、このクラスでは喋ったことがある人が美央と遥だけなのだ。

俺の唯一と言っていいほどの男の友人、誠司はクラス替えで別のクラスへ行ってしまった。


「みやび君、私と一緒に行動しましょうね?」


俺は色々考えていると、後ろから美央が俺にそんな提案をしてくる。


「じゃあお願いするよ」


俺としては知ってる人と一緒に行動した方が安心できる。

まあ周りの男子からの視線は痛いのだが。


「まずは班を決めてくれ、最低2人、多くて5人で先生にプリントを提出してくれ」


先生はそう言ってプリントを全員に配る。


「ですって!私たち2人で提出しましょ?」


「ああ、いいけど、みおは他の人と組まなくていいのか?」


「当然ですよ、みやび君以外は私の楽園に不要です」


「そ、そうか...」


一体美央はどんな楽園を築こうとしてるんだ...


「白雪さん、一緒に組まない?」


俺たちが用紙に書き込んでいると、新しくクラスになった男子何人かがこちらに来る。


「えっと...ごめんなさい私この人と組むので...」


「でも後3人いけるよね?だったら俺たちと組んでもいけるでしょ?」


確かにその男子たちは3人で来ている。

まあどうせ少しでも美央の気を引きたいが、1人じゃ勇気が出ないので、集団で行こうみたいな魂胆だろう。


「むぅ...」


美央はかなり不満そうだ。

おそらく、どうやってこの男子たちを諦めさせようか考えている所だろう。


「な?いいよね?もう書くよ?」


その男子たちは俺の机に用紙を置き、名前を書き出す。


「おい、やめろよ、まだみおが了承してない」


流石に勝手に名前を書くのはだめだ。

それに俺としても、全く喋ったこともない奴と一緒に行動するのは少ししんどい。


「あ?お前がそんなこと言える立場か?」


「なんだよ?」


3人しか居ない中のリーダー格の男子は、俺を睨みつけてくる。


「お前調子乗ってんじゃねえのか?」


そう言って俺の胸ぐらを掴んでくる。

仲間がいるからなのか、そいつはかなり攻めてくる。


「どうなんだよ?あ?」


そいつは俺を睨むが、一瞬だけ美央の方へ視線が向いたのを俺は見逃さなかった。

おそらく、美央に強い男として見られたいのだろう。


「あの、早く離れてくれませんか?」


「えっ?あ、あの...」


美央は少し強い口調でその男子に言うと、そいつは戸惑いながらも俺を掴む手を離す。


「私...すぐに手をあげようとする人..嫌いです」


「えっ、す、すみません」


「そんな人と一緒の班になると身の危険を感じるので、一緒の班にはなれません」


「す、すみません!次から絶対しないので!」


そいつは美央に向かって頭を下げる。

うん...なんで手を上げようとした対象の俺には頭を下げようとしないんだ?


「...次からではダメです、もう手遅れですよ?正直不快です...」


「うっ⁉︎」


美央の言葉で、3人とも気まずそうに自分の席へ戻っていった。


「はぁ〜やっと行ってくれました...」


美央はホッとしたように肩を撫で下ろす。


「ホントに不快ですよ〜、みやび君に手を出そうとするなんて」


「まあ結果的に2人で行けるしいいんじゃないか?」


「まあそうですけど...みやび君もみやび君ですよ!なんであの時ガツンとやり返さないんですか!」


「おいおい...」


流石に俺だってすぐにやり返したりしない。

まあさっきのは少しイラッときたが...


「とりあえず出してくる」


「はい、お願いします」


俺は2人の名前を書いた用紙を先生に提出した。

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