第92話 突然の別れ

「っ⁉︎みお..」


美央は家に俺の両親がいる、という状況にポカンとしている。


「みおちゃん、おかえり」


母さんはそんな美央を笑顔で迎えている。


「は、はぁ..ただいまです..えっと..」


美央は俺にこの状況を説明するよう、目で訴えかけてくる。


「...」


しかし、今俺が下手に答えようものなら父さんは烈火の如く怒り出すだろう。

なので俺はあえて目を合わせず答えないようにした。


「みやび、話の続きをするぞ」


「..わかった」


俺は軽く座り直し、姿勢を正す。


「お前は何故二股をして、それを黙ってたんだ?」


「わ、私が説明します」


すると、美央はこの状況を察したのか、話の中に入ってくる。

そして美央は俺たちの関係を父さんに説明する。


「ーーーということで、卒業までにみやび君が惚れた方がみやび君を貰う、ということになったんです」


話を聞いている内に少し冷静になった様だ。


「...みおちゃんはそれでいいのか?」


父さんは少し難しい顔をしながら言う。


「私は構いません」


「..そうか、そのことを社長さんは知っているのかい?」


社長さんとは美央の父親のことだろう。


「いえ、父には伝えていません..」


美央は少し気まずそうに、目を逸らしながら言う。


「..そうか、まあ今日は一旦帰るよ、はるかちゃんの親御さんにも話さないといけないし」


話している途中、母さんがスマホを見ながら、父さんに何か耳打ちをしていた。

遥の両親に呼ばれただろうか。

そうして、父さんは俺を見ながら、母さんを連れて出て行った。


「えっと..どうしましょうか?」


美央は少し気まずそうに、こちらを見ながら言う。


「..どうしよう..」


とりあえず俺は遥にメールを送っておいた。

その後は美央が料理を作ってくれたが、遥がまだ帰ってこないということもあって、あまり食欲が湧かなかった。




次の日、結局遥はその日帰ってくることはなく、メールも返ってこなかった。


そして、遥は学校には来たものの、いつものように俺に話しかけようとしてくれない。


「おはよう..はるか」


このままだと、いつまで経っても喋ることができないので、俺から話しかけに行く。


「っ⁉︎お、おはよう、神楽くん」


遥は一度驚いた様に見えたが、すぐに俺に挨拶を返してくれる。

しかし、俺のことを苗字で読んでいる。


「な、何があったんだよ?」


「え、えっと..どうしたのかな?」


俺は遥に問い詰めるが、遥は困ったように笑顔を作る。

それは、いつも俺に向けてくれる心からの笑顔ではない。

いつもクラスメイトなどに向けるような他人へ向ける笑顔だった。


「...っ」




その日は、それ以上遥と会話することは無く、俺は落ち込みながら家に帰ってきた。


「はぁぁ..」


俺は帰るとすぐに床に身を投げ出す。


「み、みやび君..その..大丈夫ですか...?」


美央が慰めてくれるが聞く気にもなれない。


「悪い、少し1人にしてくれ」


俺はのろのろとした動作で、自分の部屋に入る。


部屋に入ってスマホを見ると、遥からメールが届いていたことに気がついた。

俺は素早く遥とのメールを開くとそこにはこんなことが書かれていた。


『みやびへ、もうあなたと深く関わることは出来ません、もう学校でも話しかけないでください





あなたと出会えて幸せでした、さよなら』


そのメールを見た後、俺はかつて無いほどの喪失感と自己嫌悪に襲われていた。


(はぁ..俺のせいだ..)


俺が美央を紹介された時、遥の存在を明かしていれば、こんなことにならなかったのではなかろうか。




「みやび君、ご飯できましたよ」


しばらくすると、ドア越しに俺を呼ぶ美央の声が聞こえる。

どうやらかなり時間が経っていたようだ。


「ああ..」


俺はおぼつかない足取りでリビング行き、ご飯を食べる。


「...」


「...」


特に喋る気も起きず、俺はただ黙々とご飯を口に運んでいた。


「あ、あの、みやび君..」


「..どうした?」


「その..ご飯、どうでしょうか?」


「ああ、おいしいよ」


「そ、そうですか..」


美央は気を遣って会話を振ってくれるが、それ以上話題が盛り上がることは無かった。


「ご馳走様」


俺は自分の食器を洗って、再び部屋に戻ろうとする。


「み、みやび君!」


すると、美央は俺に駆け寄ってきて、俺を後ろから抱きしめる。


「..どうしたんだよ、みお」


「...私じゃ..だめですか..?」


美央は弱々しい声でそんなことを言ってくる。


「その..はるかさんの代わりにはなれないかもしれませんが...私だってみやび君が喜んでくれるならなんだってやります、みやび君の心もしっかり癒します..ですから、私を選んでくれませんか..?」


美央はそう言って、俺を慰める様に更に強く抱きしめる。


「...悪い、今は1人にしてくれ」


「そうですか...」


美央の手から力が抜ける。

確かに美央を選ぶことによって、遥を忘れられるかもしれない。

しかし、今は気持ちの整理がついていない、それに、まだ遥を諦めたわけではない、それなのに美央を選ぶことなど、美央に対して失礼だ。




俺はしばらく、遥の事を考えていた。


何故遥は俺の前から姿を消してしまったのか?

それは俺が二股をしていたからだ。

自分の娘とそんな奴とは合わせたくないだろう。

だけど...少しだけ話がしたい。


「っくそ!」


俺は勢いよく玄関の扉を開け、外に走って行った。




「はるか!頼む出てくれ!」


俺は遥の家のインターホンを押し、祈る様に言う。


「みやび?」


すると、横の道の方から声が聞こえる。


「はるか?」


「残念だけど違うよ」


そこには、遥の姉の春菜が立っていた。


「はるな!頼む、はるかと合わせてくれ!」


「はぁ..それは無理だよ」


「どうしてだよ!」


俺は春菜を問い詰めるように聞く。


「みやび、よく聞いてね、昨日うちの親とみやびの親が話してたんだけどねーーー」


そこで言われた内容をまとめるとこうだった。


『はるか、今後はあんな男とは一切付き合いをやめろ、それで後悔するのはお前だ』


『そ、そんな...私は..』


『だめだ!それにあのみおちゃんという子の親はどこかの社長さんらしいじゃないか、その気になればこっちが悪くなるように仕立てるかもしれないだろ?家族にまで迷惑をかけるな!』


『み、みおはそんなことはしな...』


『いいから俺のいうことを聞け!』


こんな感じで、遥は俺との関わりをやめろと言われたようだ。




「だから諦めるしかないよ、残念だけど」


「っく...」


ここで遥を脅すなどして無理やり家に入ることは出来なくもないが、それだと更に遥の親からの警戒心が強くなるだけだろう。


俺は静かな夜道を1人で帰って行った。







しばらくは美央路線へ移動しようと思ってます。

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