第91話 新クラス

「あ!みやびーこれ見てよぉ!納得いかない!」


俺が教室の前まで来ると、座席表らしき紙を指差して俺へ不満そうに言う。


「ん?どうした?」


俺がその座席表を見ると


「ふふ、みやび君は私の前の席ですよ!」


「え...?」


なんと、恐れていたことが本当に起きてしまったのだった。


「これから楽しくなりそうですね!」


美央は笑顔でそう言いながら教室へ入っていった。




「えー、今日からこのクラスの担任のーーーー」


「みやび君」


担任の自己紹介などを聞いていると、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえる。

おそらく、というか間違いなく美央だ。


「どうした?」


「ちょっと後ろを向いてください」


「なんだよ、っておい⁉︎」


「ふふふ」


美央に呼ばれて後ろを振り向くと、そこには横からの視線をカットし、俺にだけ見えるように胸の谷間を見せてくる美央の姿があった。


「そこ、うるさいぞ」


「す、すみません」


幸い、見たのは俺だけだったようだが学校でそういうことはやめてもらいたい。


(こ、こんな感じでこられたらいつかやばいことになりそうだな...)


俺はこれからの学校生活での不安を感じるのであった。




「あ、先輩!」


俺が遥と美央と帰るため、校門に差し掛かった時、聞き覚えのある声が聞こえる。


「ああ、なつきも今帰りなのか?」


「はい!私も一緒に帰っていいですか?」


「まあ、俺はいいけど...」


俺は隣にいる遥と美央を見る。


「久しぶりだねなつきちゃん!私は全然いいよ!」


遥は中学の時、夏希と同じ陸上部だったため、夏希とは顔見知りである。


「えっと...誰ですか?」


美央は俺にこそっと聞いてくる。


「俺の後輩の青山夏希っていう子だよ」


「なるほど、みやび君の後輩...」


美央は少し考える素振りをした後、いつものようにクラスメイトへ向ける笑顔を作り、夏希に近づく。


「初めまして白雪美央です!仲良くしましょうね!」


「は、はい!青山夏希です!よろしくお願いします!!」


そして、俺たちは一緒に帰ることとなった。


「へーなつきちゃんは陸上部に入るんですね!」


「はい!」


「頑張ってくださいね!」


「はい!頑張ります!」


夏希は美央にすっかり心を許したようで、さっきから2人の距離が近い。

夏希は美央に懐いてしまったようだ。


「と、ところではるか先輩...みやび先輩と付き合っているというのは本当なんですか?」


「ん?ホントだよ!私たち付き合ってるの」


「そ、そうですか...」


遥の返答を聞くと、夏希は俯き心なしかしょんぼりしているように見える。


「ふむ、なるほど...」


美央はそんな夏希を見て何か納得したようだが、何に納得したのだろうか。


まあそんな感じで家に帰る途中、夏希と別れた後


「では、私は夕飯の食材を買って帰るので」


美央は俺たちに軽く手をあげ、近くのスーパーへと歩いて行った。


「ああ、ありがとな」


「いえいえ、みやび君の彼女として当たり前ですよ」


「か、彼女じゃないでしょ‼︎」


「ふふ、どうでしょう?」


怒る遥に不敵に笑みを向け、美央は再びスーパーへ向かっていった。




「あれ?」


家の近くまで来て、俺たちは立ち止まる。


「あれ..だれ...?」


俺たちの家の前を見ると、人影が複数人立っているのが伺える。


「あれって..ママ⁉︎」


なんと、その人影は遥の両親と、遥の姉の春菜だったのだ。


「ど、どうしようみやび!」


「い、行くしかないだろ..」


俺は遥の手を握ってその人たちの所へ行く。


「お、ようやく帰ってきたね」


俺たちに気づいた春菜がこちらを向きながら言う。


「やあみやび君、はるかとの仲は順調かい?」


遥の父親が笑顔でそんなことを言ってくる。


「ま、まあ..」


「...みやび」


俺が遥の父親に返答すると同時に、遥の父親とは違う男性の声が聞こえる。


「と、父さん⁉︎」


なんと、遥の家族に隠れて見えなかったが、俺の父親と母親もいたらしい。


「みやび、ちょっと来い」


父さんは俺の手を引っ張り、少しみんなから離れる。


「おい!あれはどういうことだ!」


おそらく、父さんは俺と美央が許嫁として付き合っている、と思っている。

しかし俺が遥を連れて家に帰ってきた、という状況に戸惑っているのだろう。


「なんで二股なんかしてるんだ!」


「そ、それは..」


美央を紹介されたときにはもう遥と付き合っていた、なんて言ったらなぜその時言わなかったのか、という事になるだろう。

俺も何故その時言わなかったのか。

昔の自分を殴ってやりたい。


「ちっ、もういい!」


父さんは俺の腕を強引に引っ張り、再び遥たちの所に戻る。


「み、みやび..」


すると、遥が少し焦った様子で近づいてくる。


「実は、私たちの関係がバレたみたい..」


遥は俺にだけ聞こえるように言う。

おそらく、俺が遥と付き合っているにも関わらず、美央と許嫁ということにしている事だろう。


「とりあえず中で話し合おう、ほら、みやび!」


父さんは俺に鍵を開けるよう促す。




「さて、みやび君、今日そっちのご両親にたまたまお会いしたんだが、そこでみやび君は遥以外の人ともお付き合いしてるだとか」


遥の父親は口調こそ落ち着いているが、どこか恐怖心を覚えてしまう。


「は、はい..」


「全く..そんな子だとは思わなかったよ..」


遥の父親はガッカリした、と言うように肩を落としながら言う。


「で、でも!俺は遥を愛しています!」


俺ははっきりと言い切る。

だが、現に二股をしているので説得力は無いかもしれない。


「..みやび君、もういいよ...」


そう言うと、遥の父親は立ち上がる。


「はるか、少し話があるから家に帰ってきなさい」


遥の父親はそう言い、玄関の扉を開く。


「ま、待ってください!」


俺はそんな遥の両親を引き止めようとするが


「みやび!!やめろ!」


父さんが大声で怒鳴る。

それからは遥は春菜に連れていかれ、実家に戻ってしまった。


「...」


「...」


家に残ったのは俺と俺の両親の3人だ。


「みやび..」


沈黙を破ったのは父さんだ。


「はるかちゃんとはいつからだ?」


「みおと初めて会った日のちょうど1日前だよ」


「そうか..何故言わなかった?」


「そ、それは..」


何故言わなかったのだろうか?

あの時言っていれば、何事もなく遥と付き合えていたはずだ。


「...」


「何故だ?」


父さんは早く言えとばかりに、言葉を繰り返す。

そんな時、玄関のドアがガチャと開く音がする。


「ただいまです!あれ?お客様ですか?」


そこには買い物で買った袋を片手にさげた美央が立っていた。

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