第83話 バレンタイン

「まだ手、痛い?」


遥は包帯の巻かれた俺の手をみながら心配してくれる。


「いや、ある程度痛みは引いたよ」


「みやび君..すみません、あんなことに巻き込んでしまって..」


「別に美央のせいってわけじゃないよ」


美央は大袈裟すぎるくらい俺に謝ってくる。


「で、でも..」


「もう解決したんだからいいだろ?」


早見はあの後刑務所送りとなり、早見は美央との接触を今後は禁止という処分になった。


「ですが..私がもっと早く対処していれば...」


「気にするなよ、俺は元気なんだから、な?」


「は、はい...ありがとうございます..」


俺は美央に怪我をした手を見せ、元気ということを伝える。

しかし、美央は腑に落ちないようだ。




「はい!みやび!」


時間は少し飛び、今日は2月14日、バレンタインデーだ。


「ありがとう」


俺は遥からチョコを受け取る。

遥のチョコはすごく形が整っており、綺麗なハート型で、いくつか皿に盛られている。

俺はその中の1つを掴み、口に入れる。


「どう?どう!美味しい?」


「ああ、美味しいよ」


チョコは甘いが甘すぎず、ちょうどいい具合に調整されている。


「ほんと?!よかったぁ!」


遥はホッと胸を撫で下ろし、ニコッと笑顔を浮かべる。


「みやび君!私も出来ました!」


「お?みおも出来たのか」


「はい!」


美央は自分の持ってきた皿の中にあるチョコの内の1つを取り、


「はい、あ〜ん」


「あ、あ〜ん」


美央があ〜んをして俺の口の中に入れる。

美央のチョコは甘さが沢山で、少々甘すぎるくらいだ。


「ど、どうですか?私の愛を存分に詰めてみました..」


「ああ、美味いよ」


「そうですか..ふふ、ありがとうございます!」


美央は俺を見て微笑むともう1つ掴み、俺に向ける。


「もう1つあ〜ん」


「あ〜...」


「何やってんの!!」


俺がもう1つ貰おうとすると、遥が俺と美央の間に入る。


「どうした?」


「どうした?じゃないから!なんでみやびは平然とみおからチョコあーんしてもらってんの!!」


確かに、前までの俺なら絶対戸惑ってなかなか食べない所だ。


「いいじゃないですか、私とみやび君は...愛し合っていますから」


美央は顔を紅潮させ、少し身震いさせながら遥に言う。


「な、何言ってんのよ!私の方がみやびに愛してもらってるし!」


遥は俺を自分のものだと見せつけるかのように、背中に手を回して抱きついてくる。


「ね?みやびもそうだよね?」


「あ、ああ、そうだな」


俺は遥の頭に手を置き、優しく撫でる。


「ほ〜らね、みやびも私の方がいいって言ってるし!」


「ふふ、そうですね、今はそれでいいです」


美央は遥に余裕のある笑顔で返していた。

しかし...どうして俺は美央からのあ〜んをすんなりと受け入れてしまったのだろうか。

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