第71話 雅の本心

「お、お邪魔します..」


俺は今、美央の実家へ家族と来ている。

もう既に年が明けており、前々から予定していた、俺の家族と美央の家族で正月を過ごすというものだ。


「おぉ..広..」


「そうですかね」


美央の家は漫画などで見るお屋敷にそっくりで、シャンデリアが吊るされていたり、食卓のテーブルもすごく長い。

もはやすごい、としか言いようがないくらい美央は、庶民とはかけ離れた生活をしていたようだ。


「では、みやび君は私の部屋へ、ご両親様はこちらの部屋へどうぞ」


美央は俺の親を1つの部屋へと連れて行く。


「ではみやび君は私の部屋へどうぞ!」


美央は嬉しそうに言いながら、俺の手を引く。


「ここが美央の部屋なのか?」


「はい、汚いでしょうか?」


「いや..普通だと思うけど..」


汚い汚くないというより、美央の部屋は物がほとんどない。

あるのはベッドと机だけだ。

きっと今の家に来る時、家具はほとんど持ってきたのだろう。


「まあとりあえず荷物を置いてください、ずっと持ってるのもなんですしね」


「ああ、ここでいいか?」


俺は適当な場所に荷物を置く。


「はい..では、お願いします!!!」


美央は俺が荷物を置いたのを確認すると、突然大声を出す。


「ど、どうした?」


俺は戸惑いつつも、美央に何をしたのか聞いたその瞬間


ガチャリ


扉の方から何か物音が聞こえた。


「なんだ?」


「ふふ、みやび君、その扉は私が開けてというまで空きませんよ」


美央は笑顔でそんなことを言う。


「あ、開かないって..嘘だろ」


俺は入ってきた扉のノブを回して開けようとするが、扉はピクリとも動かず開こうとしない。


「ふふ、さあみやび君!こちらへ来てください!」


美央はいつのまにかベッドに腰掛けながら、自分の横のスペースをポンポンと叩き、俺を誘ってくる。


「お、おい!みお開けてくれよ」


「いやです!こうでもしないとみやび君は私に振り向いてくれないんですから!」


「み、みお?冗談だろ?」


前回もそうだったが、美央は無理やり迫るような子じゃない。

今回もきっと冗談だろう、と思っていたのだが


「いえ!冗談じゃありませんよ」


美央はにっこりと笑って言う。


「私思ったんです...このままだとみやび君は私のものにはならないって..」


美央は深刻そうな顔をしながら続ける。


「私..ホントにみやび君が好きなんです..1番なんですよ!」


美央はそう言うと、立ち上がり俺に近づいてくる。


「お願いします!私と一回だけしてください!!」


「...は?」


俺がその言葉の意図を理解しようとしている間に


「これでどうですか..」


美央は服を脱ぎ、下着姿になる。

その真っ白な下着は美央の魅力を更に高めている。


「っ⁉︎な、なにしてるんだよ!」


俺が思わず後ずさろうとすると


「逃がしません!」


美央は俺の腕に思い切り抱きついてくる。


「お願いします...一回だけ..一回だけですから..」


「む、無理だ、俺は美央とはしない」


「しっ!してくれないと出しませんよ!」


俺は美央を拒絶するが、美央は全く引く気がない。

どうやら今回ばかりは本気のようだ。


「だからだめなんだって、わかってくれ」


「わ、わかりません!全くわかりませんよ!お願いします..私...本当にみやび君が好きなんです..愛しているんですよっ!!」


「..っ」


美央は少し泣きそうになりながらも、強くそう言った。

俺に愛を叫ぶ彼女は、ただ純粋に俺のことを好きだと言っており、その姿は何故かとても美しく映った。


「..っ..これ以上っ..」


俺は少し呼吸を整えながら言葉を発する。


「これ以上俺を揺さぶらないでくれよ!!」


「..っえ?」


俺の言葉に美央はポカンとしてしまっている。

俺は呼吸を整えると少し頭の整理をする。


もうここまできたのなら言い訳はできない。

俺は今、美央に対してドキドキしている。

そう、つまり俺は美央を異性として意識してしまっているのだ。


「み、みやび君..もしかして私の事を..」


美央は期待に満ちた目で俺の目を見つめてくる。


「っ..そうだよ..少なからず..意識はしてるよ、今だってドキドキしてる...」


「そ..そうなんですね...」


美央は嬉しさからか、少し体を震わせながら下を向き、俺と目を合わせようとしない。


「だけど、だからってみおとすることは出来ない..」


「まあ..それがわかったのならもういいです..すいませーん!開けてくださーい!」


そう言うと、ドアの方からガチャリと音がする。

鍵が開けられたのだろう。




「えへへ、みやび君!」


美央は俺の腕に自身の腕を絡ませてくる。

俺が部屋を出てから美央はずっとこの調子だ。


「ちょっとは離れてくれ、歩きにくい」


俺は少し腕を曲げ、美央を退かそうとする。


「い〜やで〜す!みやび君にもっと意識してもらわないと!」


美央はそう言うと更に俺と腕を絡め、俺の腕に美央の胸が当たるほどまで近くに来る。


「お、おい..」


「ん〜?どうかしましたか〜?」


美央は悪戯っぽい笑みを浮かべながら俺を見てくる。


「...はぁ、全く」


俺は美央から目を離し、前を向いたが最後に見た彼女の笑顔に不覚にも可愛いとおもってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る