第62話 ハプニング

「早速着替えて行こうよ!」


遥は目の前に広がる雪景色を見て、早く滑りたいというようだった。


「そうだな、じゃあ着替えたらもう一回ここに集まろうか」


「うん!」




「悪い、待たせた」


俺が集合場所に着くと、2人はもう着いていた。


「あ!きたきた!」


「私たちもさっき来たところですよ」


「さ!早く行こ!」


俺たちはリフトに乗って上まで行く。

リフトに並んでいる途中、2人が俺と乗ることで喧嘩をし始めたので、遥と美央の2人で乗らせて、俺は1人で乗ることにした。


「おお..」


下の方から見てもすごい景色だったが、上から見ると更に景色がいい。


「みやび、競争しようよ!」


「ああ、いいぞ、みおもするか?」


俺が美央を誘うと美央は若干困ったような顔をする。


「あの..私、滑れません..」


「そうなのか...」


「はい..本当はみやび君と一緒に滑りたかったですけど...」


美央はあまりにも悲しそうに言うので、流石に可哀想に思えてくる。


「教えるよ」


俺は一度スキー板を置いて美央のそばへ行く。


「いえ..大丈夫です..みやび君は楽しんできてください!」


美央は笑顔を作っているが、その瞳はとても寂しそうだ。


「いや、今日はみおに教えることにするよ、1人だけ滑れないのも可哀想だし」


「で、ですが..」


美央はまだ俺に申し訳なさそうにしている。


「みお、人の善意は素直に受け取っておくもんだぞ?」


「そ、そうですか..?では、お願いしてもよろしいでしょうか?」


「ああ、いいぞ、はるかは滑るか?」


俺は滑りたくてしょうがない、と言った様子の遥の方を見る。


「え、いや、私も教える!」


遥はストッパーを外しながら、張り切ったように言う。


「遊んでていいぞ?」


「ううん、みやびと一緒にいる方が楽しいから!それに私、教えるの上手いよ!」


「そうか、確かに俺が教えるより早そうだ」


「でしょ?」


俺も昔遥にスキーを教わったことがあるが、その時もすぐに滑れるようになった。





それから小1時間程美央に指導し、美央は簡単なコースなら滑れるようになった。


「これならいけそうだな」


俺たちはスキー板に乗り、滑る準備をする。


「やっと滑れる!」


遥は待ちきれなかったようで、先に滑っていってしまった。


「お、おい!早いぞ」


俺が止める声も聞こえなかったのか、遥は見えなくなってしまった。


「あー、俺たちも行こうか」


「はい!」


俺たちが行こうとするその時


「..まずいな」


視界は白く、遠くのものが全く見えない。

なんと、一瞬の内に吹雪が吹いてきたのだ。


(これは滑れそうにないな)


「行きます!」


「待て!」


俺は美央が滑ろうとするのを止め、一度遥と連絡をとる。


「もしもし、はるか?」


『みやび?どうしよ吹雪いてきちゃった』


「そっちは無事着いたか?」


「私は大丈夫だったけど..みやびはどうしよ..」


遥は相当心配しているようだった。


「大丈夫だ、俺とみおは歩いて下るから、はるかは先旅館に戻っておいてくれ」


『で、でも..大丈夫?』


「もちろんだ、すぐに帰るよ」


『そっか、そうだよね、じゃあ待ってるね』


「ああ」


俺は電話を切り、当たりを見渡す。


「みお、あそこから降りられるみたいだ」


「そうみたいですね、行きましょうか」


俺たちは途中までは順調に下っていたが、事件は起きてしまった。


「..きゃっ!!」


「みお!」


吹雪で前がよく見えず、美央が足を滑らせてしまった。

そして美央は、そこから崖になっていた所の下まで落下してしまう。


「みお!大丈夫か!」


「うぅ..すみません」


俺も降りようとするが、かなりの高さがある。

なんとかして降りたが登るのにかなり苦労するだろうを


「怪我はないか?」


「すみません、少し足が痛くて..」


美央の様子を見ると、痛みは少しどころではない。

立ち上がることすらきつい程に怪我をしていた。


(その足ではこの崖は無理か..)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る